かつて家庭科室だった場所は天井を剥がされ、壁も倒されて隣のまた隣の部屋まで広げられていた。部屋の隔壁が瓦礫の山と化して積み上がり、切断された電気の配線や、捻じ切られた水道管、ガス管が剥き出しにされ、床は一面水浸しになっている。 数倍の広さに改造された部屋は、どこを見渡してみても異形や魔物で満たされていた。 全身が毛むくじゃらな二足歩行の獣人、顔から手足を蜘蛛のように何本も生やした畸形、磯巾着を想起させる触手の塊、頭が人間の手首の形をした蛇、歩き回る骸骨たち、見上げるほど巨躯の大鬼たち。 家庭科室に陣取る彼らは――意外にも地道に料理の準備をしていた。 ぐつぐつと煮立っているのは、濁った色の出汁で満ちた大鍋。彼らが自前で用意した鍋はユニットバスのように大きく、目的が人間を煮込むことにあるのは明白だった。 焦げた匂いを漂わせて真紅に変色しているのは、炙られて高温になった鉄板。彼らが自前で用意した鉄板は大きさにして四畳あり、目的が人間を焼くことにあるのは明白だった。 他にも、粘りつく蜜を垂れ流す花や、黄金色の蜜で飽和した巨大な蜂の巣。大小無数の岩塩の山。元より冷蔵庫にあったマヨネーズやお醤油、ケチャップなど。目的が料理の味付けなのは明白だった。 そして、これから調理される食材たちは、色あせたレオタードを纏い、凛々しく輝いていた顔を恐怖で引き攣らせ、球の形をした半透明の結界に押し込まれていた。
20人前後で満員の球体に詰められた数十人の新体操部少女隊は、瓶詰めになった蟲の佃煮のように犇めき合い、牢がはち切れんばかり。仲間と自分の腕や脚が絡まり、仲間の身体に圧迫されて窒息しながら、身動きもできずに苦しみに呻く。 数十人という少女たちの数は、校舎に突入した人数より数割増している。 加算されているのは、普段は戦闘に参加していない訓練中の戦士たちだった。 新体操部のレギュラーではなく補欠の少女たちもまた、学園の別の場所で待機していたのである。高等部、そして中等部も然り。 まだ未熟で戦闘には参加できずとも連絡係や救護体制を整えることは可能だと、戦闘服のレオタード姿で突入部隊の戦況をじっと見守っていた。戦士の訓練を始めてまだ数週間の中等部生徒もいれば、性格的に戦闘に向かない高等部生徒の部員まで、事情も様々である。 その彼女たちのいた部屋は、気配を殺して忍び寄っていた魔物たちに急襲された。 不意を突かれた少女たちは抵抗もほとんどできずに全員が捕まり、無残に敗北していた突入部隊と再会を果たすことになる。 ここに新体操部少女隊は、途中の戦闘で魔物に惨殺された数名を除いて、中高の部員全員が捕虜にされてしまった。バックアップまで捕まり、増援要請も外部との連絡も見込めない。 これがフィクションの映画なら、ここらへんで水浸しの床に電気配線がショートしたり、漏れたプロパンガスに引火して爆発が起きる。 起死回生の大爆発で魔物は粉々になって滅び去るか、正義の側に反撃の機会が与えられるのが世界の道理。超常的な怪物や存在を相手に、人類が対抗するための手段。 しかし、魔物が跋扈するこの光景は、そういった一種のお約束が全て起きた後の世界なのである。ガス爆発は魔物が出現してすぐに起き、電気配線のショートも爆発から間も無く起きている。 結果として魔物たちはアクシデントに何の影響も受けず活動を続けていた。異世界から呼び出された強力な魔物たちは家庭用ガスの爆発や電気ショックなどでは微動だにしない。
「私たち、これから煮たり焼かれたりして、食べられちゃうのかな……あのお鍋で……」 「助けが来る。助けが来るもん。助けが来る。助けが来るもん。きっと助けが……」 球の牢獄からは悲鳴と懇願が壊れたスピーカーのように漏れる。それでも悲鳴を上げれるのは軽傷の証であり、重傷の者は声も出せなかった。 へし折られた腕が仲間の身体に更に押し潰され、爪に裂かれた傷を仲間の身体が圧迫して出血が酷くなる。気を失う者は失禁し、胸を圧迫された者は嘔吐し、腹を裂かれた者からは臓物が溢れた。 「い、嫌です……こんな死に方……こんな死に方なんて……ぐすっ……うえぇ……」 「助けてっ! ……お父さん……お母さん……助けてぇっ! 助けてえええぇっ!」 傷口から溢れる血液や臓物、股間から流れ落ちた小水や汚物、唇から漏れ出た唾液や吐瀉物は、濃密に詰まる少女たちの隙間を這うように伝い落ちる。陵辱された状態で捕らわれた者は、穴という穴から魔物の大量の精液を逆流させていた。 「うぶぶ……ごぶっ、ぐぶっ、ごぼっ、息が、ごぼっ、げほっ」 動かせない顔に、仲間の血液や魔物の精液がドロドロ流れ落ちてくる。生理的嫌悪を醸し出す生臭い液体を浴び、嘔吐して苦しむ少女の近くでは、別の少女が顔を仲間の尻と密着して固定されていた。 「止めて……もう、これ以上、漏らさないでください……お願い……我慢して……!」 魔物に陵辱されて潰された2つの穴から精液が逆流し、性器からは小便が噴き出し、肛門からは健康的な色の長い便が漏れる。先には少女の顔がった。顔中を便や精液でドロドロにされた少女が上に我慢を求めるも、相手は失神して反応すらしない。 ごろん、ごろん、と牢獄が転がると、底に溜まった血と精液と汚物の汁も移動し、少女たちの上下の位置関係が入れ替わる。 「いぎいいいいい!」 「ぎゃああ!」 「ぐ、あ……あああ……ぁぁ……」 底側になった少女が内臓を破裂させて血を吐き、骨が砕ける音が複数聞こえた。 少女たちの悲声が牢獄から響き渡る。それは普段、鮮やかな演技で人々を魅了する妖精たちから発せられたとは思えないヒビ割れた声で、まるで獣の雄叫びのように言語にならない。 「……みんな……諦めちゃだめ……諦めたら、本当に助からない……諦めずに、耐え抜くのよ……」 これまで部隊を指揮していたキャプテンが口から仲間の汚物を吐き出し、腹から内臓を垂れ流して後輩の体重に押し潰され、手足を出鱈目に折り曲げられながらも仲間を励まし続ける。 「仲間通しで、潰し合わせて……汚し合わせて……酷い……ひどすぎ、ます……うぐうううっ!」 突入時に仲間を励ましていたフープの少女が、仲間が垂れ流した汚物を顔に受け、別の仲間を突き破る折れた骨に串刺しにされ、澄ました顔を歪めて泣き叫ぶ。 「……わたし、の、ちから……やっと、みんなのために……つかえるように、なったのに…………」 戦士の訓練をしてまだ二週間のあどけない少女が、手足や肋骨を押し潰されて仲間の汚物に塗れ、下腹部から子宮の残骸を露出させながら、むせび泣く。 結界に阻まれて外に漏れない汚物は、牢の中を循環し続けながら量を増していった。 内臓と血液と精液と汚物のジュースは純白を濁色に染め上げ、顔に化粧を施し、身体を沈めて窒息させながら底部に蓄積した。密着したレオタードは汚物を染ませて全身を包み、ヌルヌルした感触と猛烈な臭気は少女たちを苦しめ続ける。 自分の体重で仲間を押し潰している事実と、自分から漏れた汚物で仲間を苦しめている事実、そして等しく与えられる苦痛と汚辱の洗礼は、正義の少女隊の美しい心を蝕んで引き裂いていく。 しかし、少女たちの精神は集団ゆえに簡単に揺るがない。 牢獄に入れられて汚辱と肉体破壊の拷問に晒されながら、時に力強い視線で魔物たちを睨みつける正義の新体操部少女隊を見ながら、魔物たちは笑みを浮かべながら準備が整うのを待った。 数十人の少女たちが体液のソースに絡まるには、もう少しだけ時間が必要なのだ。少女たちの強がりがどこまで続くかを賭けながら、脂に絡まるのを待つのも一興と魔物は余裕だ。
しばらくして、少女隊は全員牢屋から引きずり出された。 死亡した者もいたが、大半が生きて牢獄から出られた。血と汚物で汚れたレオタードを張り付かせ、髪はぐちゃぐちゃに乱れて顔もドロドロ。手足が折れて内臓が破裂し、外に中身を垂れ流していた。 牢獄で死んだ少女たちの残骸は、まとめて鍋に投げ込まれた。 あまりの光景に悲鳴を上げる暇も無く、少女隊は魔物たちによって別の場所に運ばれ始める。 手や足、頭を掴まれて床を引き摺られる少女たちの姿は、まさに食肉にされる子豚だった。先には赤く焼けた鉄板、種種の調味料――そして歓声を上げる魔物たちが待ち受ける。 「おとうさま、おかあさま……助けて……もう、まがまま、いいません……だから……」 「わたし……たべてもきっと、おいしくない……おいしくないよぉ……!」 血の脂に塗れた新体操部少女隊は、順に焼けた鉄板へと運ばれていった。特製のレオタードは形崩れや焦げ付き防止に最適なので、脱がされないまま調理される。 程なくして、手足を完全に折られたレオタード少女が数名、鉄板で白い煙を上げて絶叫した。 正義のために戦った少女たちの背中が音を立てて焼けていく。生死を共にした特製のレオタードは、鉄板から適度に熱を通し、怪物たちに最高の料理を提供するために利用されていた。 余りに凄惨な料理の光景と自分たちの末路に、新体操部少女隊は泣き叫びながら魔物たちに許しを乞い、肉が焼ける匂いに嘔吐を繰り返した。悲鳴と嗚咽と絶叫と狂乱と自失が入り混じる。 魔物たちは鉄板の少女の顔にマヨネーズやソースを山盛りにしつつ、次に焼く素材をじっくりと選び始めた。肉つきの良い者から痩せた者まで、まだ数十人もいる。 正義のために戦った少女たちの声は、肉の焼ける音と魔物たちの歓声に虚しく消されていった。
…………………… …………
生徒の大半が帰宅し、なぜか教師や守衛の気配さえ消えた校舎の中を、険しい表情で駆けている女生徒の集団があった。 彼女たちは新体操部の一団で、服装は白地に鮮やかな虹模様が凝らされたレオタード。女性特有の曲線を決して卑猥にせず、大花のように自身の美しさを強調せず、着る者の美しさと気品を引き立てる珠玉の衣装。それを纏う少女たちも例外なく美少女に含まれる容姿をしている。 集団には中等部の新体操部員も複数含まれていた。力強い肉体美を体現した高等部の女性たちに比べて、成長途上にある肉体特有の美しさと青さを、レオタードが纏めて別種の芸術品に昇華する。 彼女の手にはリボンやフープなど、一般的な新体操の道具が握られている。全員が一番愛称の良い道具を選び、この校舎の中を進んでいるのだ。 「全員、ここで散開しましょう。絶対に無事にここに戻ること」 高等部キャプテンの少女が、使い慣れたリボンを握り締めながら言う。 「私たちの目的は、学園に潜伏した陰陽術者の排除、および生徒30人の救出」 「やるしかないってことだ。できる、できない、なんて考えても仕方ないし」 「これまでも、無理難題はいくつもありましたが、みんなで頑張ってきたじゃないですか」 危険が大きくとも、恐るべき人外の脅威に立ち向かえるのは彼女たち以外にいない。彼女たちは危険を承知で、平和を守るために人外と戦う道を選び、ここに集っているのだから。
そして、事件後、新体操部少女隊は全員が消息不明である。 誰一人として死体は見つからず、生きている可能性が否定されたわけではない。 どんな苦難でも希望を捨てず、きっと生還して、あの凛々しい笑顔を見せてくれるはずだ。
BADEND
■『新体操部少女隊散華』 1 2 3 4 5
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