悲劇の涙のような雨が晴れたとき、現れた新しい戦士はまだ少女だった。 流れ落ちる秘境の瀧のような髪を靡かせ、意志の強さを如実に現す鋭い視線。華奢で柔らかな肉体を彩るは少女の魂と同じく穢れなき純白に、パープルカラーのラインを入れた美麗なビスチェのドレス。 胸に堂々と咲いた一輪の蒼い薔薇は、彼女の気高さをそのまま体現する。 「こんなことでは駄目よ」 言葉の先には、ボロボロの姿で地面を這う5人の少女。 伝説の戦士の冠を持つ彼女たちの不甲斐なさを諌めるかのような言葉、そして言葉に裏打ちされた実力を新しい少女戦士はまざまざと見せつける。 悪の組織でも中間管理職、というより最近問題の名ばかり管理職にいたハチの怪人のパンチを、蒼薔薇の戦士は易々と受け止めた。さらに、しなやかな体術で攻撃を裁き、逆にヒジで強烈に突き上げて吹き飛ばし、地面に思い切り叩きつけ、彼の出世とローン返済の道を完膚無きまでに粉砕する。 結果として彼女は伝説の戦士たちに反撃の機会を作り、馴れ合うことなく戦場から去った。 「大切なものほど、失いやすいのよ」 「本当に大切なものなら、自分でしっかり守らなくては駄目よ」 心に重く響く言葉を、伝説の少女たちに残して。
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戦場から離れた場所、新しい戦士――ミルキィローズは、自分を取り囲む複数の気配を感じて立ち止まった。大きな瞳が油断することなく周囲を見渡し、近くに誰もいないことを確認する。 雨が止んで柔らかくなった地面を、湿り気を帯びた不穏な風が舐めた。ローズの純白のスカートがぱたぱたと波打ち、太股に密着したスパッツが露になる。周囲を舞うのは美しい薔薇の花弁。 「さっきの奴らの仲間かしら。こそこそ隠れてないで姿を現しなさい。卑怯者!」 凛とした声が空気を震わせると、強烈な殺気が次々と姿を現してきた。 ローズの倍ほどの背丈を持つ、人間の形をした暗黒の塊たち。 岩のような筋骨隆々の肉体からは闘気が陽炎のように立ち昇り、赤く光る瞳はまるで血の色。数は五体。手にはそれぞれ棍棒、鉄球と分銅が両端に付いた鎖、大金槌、鍵爪、鋭い棘が突いたムチが握られ、纏う空気は獰猛な獣のようである。 闇の住民たちの出現によって、雨上がりの美しい光景は一瞬にして黒い霧に包まれた。天空は異世界と化したような渦巻く暗雲に覆われ、生ある全てのものが活動を停止したかのような静寂が満ちた。 地獄の底から響くような彷徨を上げ、五体の暗黒の戦士がローズに向けて突進してくる。 「話は通じそうにないわね――いいわ。闇の住民よ、かかってきなさい。私が相手になってあげる!」 暗黒の世界に白と紫の風が吹き、五体の闇の軌跡と交錯して荒れ狂う。棘つきのムチの軌跡を簡単に読んで回避したローズは、顔に向けて飛んできた鉄球を軽く流し、ステップを踏んで鍵爪も避ける。 闇の戦士たちはローズを包囲して物量で圧倒しようと陣形を為していく。ローズも敵の力量を読みながら攻め方を考えるが、ハチやサソリの怪人より数段格上に感じる。印象だけだが、手強い敵だ。 (長期戦になると不利だわ。一気に勝負をつけないと!) 背後に回り込んでくる敵の動きを読みながら、振り下ろされた大金槌を受け流し、がら空きになった敵の腹部に強烈なヒジを叩き込む。一気に攻め込んでそのまま戦闘不能に持ち込む算段だ。しかし、 (痛いっ! 何なの、この感触は……まるで鋼鉄の塊でも攻撃したような……!) 最初の攻撃でヒジに伝わったのは、関節が砕けそうなほど頑強な敵の筋肉。思い切り叩き込んだ一撃が自分の肉体に襲い掛かる。はっと見上げた視線の先には、余裕の笑みを浮かべる闇の戦士。 「はああああああああああっ! たあああああああああああっ!」 身体中のバネを総動員し、白と紫の疾風のようなハイキックを敵に打ち込む。しかし、ヒールに伝わるのは関節が砕けそうな激痛と、余りに硬い敵の肉体。弱点の首筋に叩き込んだのに、敵は微動だにしない。 「そ、そんな……私の攻撃が通じない、なんて……っ! くううっ!」 攻撃を受けた闇の戦士は直立不動で、攻撃をした蒼薔薇の少女が逆によろめく。巨岩を易々と砕ける戦士の力を以て、逆に肉体が壊れるような頑丈な敵。大金槌を避けたローズに焦りの色が浮かぶ。 真横から、背後から、ムチと鎖分銅が蛇のように踊り狂って薔薇を散らそうとする。しかし、直撃したと思われた瞬間に残像は消え、本物はすでに棍棒の戦士にパンチを叩き込んでいた。 「あああっ! 手が……!」 激痛が走る。はやり悲鳴を上げたのはローズの小さな握り拳。攻撃してもダメージを受けるのは自分だけという圧倒的不利に精神が綻び、思わず小さな悲鳴を漏らしてしまう。 「こうなったら、必殺技で……ええっ!?」 自分の必殺技を使おうとするミルキィローズだが、結界に封じ込められのか技が発動しない。逆転の最後の可能性があっさりと否定され、流石の少女も動揺する。 (そ、そんな……どうすればいいの!? このままじゃあ、やられてしまう……!) 拳を手で押さえたローズは振り下ろされた棍棒をステップを踏んで避ける。しかし、避けた先にムチや鎖分銅の攻撃。複雑怪奇な曲線を描く攻撃を避けるが、頬には玉の汗が浮かんでいた。 「はっ! ふっ! くっ! くううっ!」 咄嗟に身体を低くした頭上を、背後から繰り出された鍵爪が通過した。 横から繰り出される棍棒を流れる動きで回避し、足元を張ってきたムチを抜け、飛んできた鉄球を受け流し、背後に回ってきた大金槌に牽制のキックを入れる。 (痛い! 攻撃が通用しない! 悔しいけれど退くしかないわ! 突破口を作らないと!) 激痛の走る足を叱咤しながら、頭に振り下ろされた大金槌から逃れる。 優雅に澄ましていた蒼薔薇の戦士から汗が飛び散り、顔にはもう余裕は無い。 疲労から動きが明らかに鈍ったローズを、暗黒の戦士は大金槌・棍棒・鍵爪で三方向から取り囲んで物量で責め、鎖とムチで撹乱する戦法に出た。包囲から脱出さないための二重の陣形である。 「はあ、はあ、はあ、はあ」 呼気がどうしようもなく乱れる。強力な格闘術とスピードで敵を翻弄してきたローズが、今にも散りそうな儚き存在に堕ちていく。最早、彼女の勝機が薄いのは誰の目からも明らかだった。 (大切なものほど、失いやすいのよ) (本当に大切なものなら、自分でしっかり守らなくては駄目よ) 伝説の戦士たちにかけた言葉が、脳内で反芻される。このままではいけない。自分は大切な使命のためにこれからも戦わなければならないのだ。ここはどれだけ無様でも、逃げなければならない。 あの五人が自分を助けに来てくれるのではないか――そんな希望にすがるようでは、本当に負ける。 「私は、こんなところで朽ちるわけにはいかないのっ!」 両サイドに来た鍵爪と棍棒にダブルで手刀を打ち込むローズ。グローブから伸びた繊細な指から、綺麗な爪が剥がれ落ちた。大金槌にハイキックを食らわすも、ヒールの中でも爪が割れて血が滲む。 「負けないっ! 負けるものかっ!」 棍棒にヒジ打ちを繰り出し、大金槌を回避して鍵爪にヒザを打ち込んだ。すらりと長い足は内出血で腫れて変色し、ヒザの皮は剥けて血で濡れている。 敵を攻撃すればするほど手足は傷つき、パワーとスピードは奪われていった。 「……うぶっ!」 ローズは敵の猛攻を避けきれず、バランスを崩して水溜りに倒れた。盛大な飛沫と音。淡い色のリップは否応無しに地面とキスさせられ、泥水の味が口の中に広がる。 「……ううっ……くう……っ」 凛々しい顔に陰りが見え、泥に塗れた美しい戦闘ドレスが惨めさを際立たせた。ローズは泥の上をゴロゴロ転がり、両手とヒザで這いながら棍棒や大金槌から逃げ回る。 洗練された動きは失われて、完全に防戦一方。手足が疲労で言うことを聞かない。悔しさに歪んだ顔は敗色が濃厚になり、身体は無意識のうちに震え出していた。 よろめきながら立ち上がるミルキィローズを、五体の闇の戦士は逃げ場無く囲む。少女は力を振り絞って己を鼓舞し、全力で敵に挑んだ。完全に追い詰められた今、戦う以外に活路は無い。 闇の戦士を打つ毎にローズの拳は赤く染まり、闇の戦士を蹴る毎にローズの足は黒く腫れる。 四方から攻撃を繰り出して獲物を翻弄し、必死の抵抗を容赦なく跳ね返す狩人たち。ローズを生かさず殺さず武器で追い詰め、決して逃走を許さず、反撃の隙を稀に与えては封殺する。
戦いは数時間が経過して、なお続いていた。 闇の戦士たちの肉体はローズの血で赤く濡れている。彼らに傷は一つも無い。 「はあ……はあ……はあ……はあ……はあ……」 ローズに戦う力はもう無かった。綺麗な細工の手袋は破れて鮮血で赤黒く染まり、爪は一枚も残っていない。ヒザやヒジも血塗れになり、ヒールは底が抜けて皮が剥けた足が露出していた。 「……はあぁ……ああぁ……」 力を失った目から涙がぽろぽろ零れ落ちる。あまりに苦しく希望の見えない長時間の戦闘が、ゆっくりと少女の精神を折っていた。楽になってしまいたい気持ちを、もう否定することができない。 漠然とした恐怖が少女の中で具体化したとき、闇の戦士たちはようやく遊ぶことを止めた。 「きゃああああああ――っ!」 鍵爪の一閃が胸の薔薇を散らせ、汗で濡れたビスチェを捉えた。 美しい戦闘服は爪に釣られて縦に裂かれ、慎ましい大きさの乳房が露にされる。滲み出した血が汗塗れの右乳房に小さな赤い薔薇を咲かせた。 しかし、ローズに羞恥を感じる余裕は無い。頭に飛んできた分銅を咄嗟に回避しようとして、掠った左頬から赤い血が飛び、端整な顔が苦痛に歪む。 攻撃は止まない。 戦闘服からまる見えの乳房を小さく揺らしながら棍棒を回避するも、ミニスカートがムチに接触し、音を立てて破かれた。 (駄目だわ……勝てない……逃げられない……このままじゃ、殺される……) スカートに生まれた卑猥なスリットから、スパッツに包まれた下腹部が見えている。ローズは鍵爪に左肩を切り裂かれ、フリルを赤く染めて攻撃から逃げ惑った。暗黒の戦士たちがいなければ、パブで卑猥なダンスを踊る見世物にしか見えない。 それでも力無く敵に挑みかかるローズは、最早隙だらけで哀れみさえ誘う。ガードの腕をムチが軽く叩いて払い、腹部に棍棒の戦士が強烈な一撃を叩き込む。 「ぐっふうううっ!?」 腹部に棍棒を直撃され、ローズは身体を折り曲げ、唇の隙間から血と胃液を垂らして悶絶した。内臓が血の海になり、胃の中身どころか胃そのものが飛び出すような衝撃だった。 「が、はぁ……ああ……あ……ぎゃああああ!」 乳房を狙ったムチが鋭い音を立てて、無事な左乳房の肉を削ぐ。少女の象徴たる大切な部位が蹂躙されていく。高慢な戦士に苦痛と屈辱を与えるべく、闇の戦士は何度も乳房をムチで切りつけた。 「あ……あああっ! がはっ! あっ!」 よろよろと後退するや背中に大金槌が叩きつけられ、鈍い衝撃と同時に骨の砕ける音が複数。全身が弓のようにしなり、細い体が悲鳴を上げて軋み、そのまま壊れる。 「げほっ! ごふうっ!」 口から赤黒い血を吐いて悶絶した瞬間、これまでのお礼とばかりに棍棒の戦士の巨大なヒジが、地獄の苦しみを味わうローズの顔に打ち込まれた。 「が、ぁ……! あ……っ!」 慈悲の無い一撃に、ローズの鼻は歪に変形し血を噴いた。ムチが乳房に連続して打ち込まれ、柔らかい肉を血に染めていく。悪意の攻撃を受け続けるしかない。最早それは戦闘でなくリンチだった。 「がっはぁ……ああ……はああ……あぐううっ!」 飛んできた分銅がローズの広いおでこを叩き割り、髪飾りが乾いた音を残して砕けた。 額から赤い血が飛ぶ中、鍵爪が髪の毛ごと背中を引き裂き、髪がばさりと解ける。額から顔に落ちる血液と髪が視界を隠し、ようやく髪の隙間から見えたのは、一直線に飛んでくる巨大な鉄球。 戦闘ドレスの上半身を剥かれて血塗れの裸体を晒し、髪が垂れ落ちたミルキィローズは、最早処刑を待つばかりの哀れな囚人に成り果てていた。もう、どうしようもない。何もできない。 「いやああああああっ……!」 恐怖と絶望に歪んだローズが鉄球に打たれて宙に舞い、地面に叩きつけられた。髪を掴み上げられるも、顔を青黒く腫らし、血と泥に塗れた少女に、もう凛々しい戦士の面影は残されていない。 乱暴に地面に投げ捨てられるローズと、取り囲む五体の闇の戦士。 顔に棍棒や大金槌が振り下ろされ、ローズの視界は暗黒に変わった。伝わってくるのは、左足を叩き潰す大金槌の衝撃。右腕を折り曲げる棍棒の硬さ。左腕を引き裂く鍵爪の感触。右足に巻きついて肉を削ぐムチの締め付け。腹に叩き込まれる鉄球の重さ。 「……し……死にたく、ない……もう、許して……い、命だけ、は……お、願い……」 ズタボロに引き裂かれたドレスから、皮を剥かれた肉が露出していく。タイヤに轢き殺されたヒキガエルの姿に近づいていくミルキィローズの悲鳴が上がる度に、周囲の水溜りが真紅に染まった。 「うぐっ……うぅっ……! な、何を……しているの……私の、身体で……まさ、か……いや……」 凄惨な暴行と同時に、下腹部に鋭い痛みが走り、経験したことの無い異物感にも襲われた。激痛の正体を悟ったローズは、戦士ではなく少女として悲鳴を漏らす。 闇の戦士たちはまだ幼いローズの肢体に次々と圧し掛かり、欲望を発散させていった。 下腹部の痛みと異物感がミルキィローズの深部に、自分は戦いに敗れた無力な少女である、と文字を刻み付けていく。それは、ローズの心が絶望に呑まれるまで、50回以上も続けられた。
その地面は水のように柔らかく、氷のように寒い場所だった。 ミルキィローズを包み込む暗黒、それは『絶望の闇』と呼ばれる世界。 白濁に塗れ、全身傷だらけで動けないローズの身体を、巨大な腕と太い尻尾が絡めとる。 水面の向こうに映る2つの陰は、蝙蝠とカメレオン。2つの異形は嗤い声を上げて、絶望したローズを自分たちのいる場所に引きずり込もうとしていた。秘密結社ナイトメアの幹部、カワリーノとブラッディの成れの果ての姿だった。 嗤い声は、正気を感じさせるものではない。 発狂し、破綻した狂気の嗤いだった。 「……い……いや……だれ、か……助け、て……だれか……たすけ、てぇ……」 潰された顔で泣きじゃくり、ローズは五人の伝説の戦士たちの顔を思い浮かべながら、暗黒の中に引きずり込まれていく。希望を捨ててはいけないと心中でいくら叫ぼうと、絶望の闇は払えない。 少女は暗黒に呑まれ、むせび泣く声を残して別の世界に旅立った。 それは伝説の戦士たちを助けた華麗な少女の、あまりに哀れな最後だった。
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「早く、あの娘にもう一回あいたいなー。ちゃんとお礼もいいたいしー」 「ま、戦いを続けていれば、いつかきっと会えるって」 「そうですよ。焦らずにまた逢える日を待ちましょうー」 「えー、でもー、あっ! そうだ! 今日の放課後はあの娘を探しに行こう! けってーい!」
何気ない学園の日常、少女たちの会話。 しかし、蒼薔薇の少女が現れる日は二度と来ない。
BADEND
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