スライムはサターンに気付かれないよう、粘液の海に攻撃用の端末を走らせる。標的は硬い装甲に覆われた小さな盛肉だが、直接攻撃は有効ではない。液状で可能、そして不可能なことを本能的に理解する怪物は、自分に一番適した方法で次の攻撃を開始する。 一方、サターンは粘液の水面に映る顔を見て、頭を叩き割られるようなショックを受けていた。血と粘液のソースに塗れた顔。それは毎日、鏡の前で見慣れた自分の顔ではなかった。手入れを欠かさずにいた黒髪は無く、殺風景な頭に戦士のティアラが虚しくキラリ。血の川が流れる眼窩から眼球が神経に繋がれて垂れ落ち、歯と舌が剥き出しの口が悲痛に歪む。 (パパとママにもらった顔が……無くなっちゃった……どこにも無くなったちゃった……) 今はいない母親の顔と、異次元生命体に取り込まれた父親の顔が重なり合い、戦士のサターンではなく普通の少女ほたるの心中で砕け散る。強烈な罪悪感と無力感。精神のどこかが壊れていく。おかしくなるのを感じるが、壊れるたびに心の重石は少しずつ減っていく。 (このままじゃいけない……戦わないといけない……もう、みんなを守れるのは、私だけなんだから) 今も知らないどこかで平和に暮らしている人々を守らなければならない。顔に大きな傷も無く、少女として当たり前の幸せを享受している娘たちも守らないといけない。自分が顔を失ったからと、戦士の使命を投げ出すことなど許されない。まだ幼い歳とはいえ、ほたるは愛と正義のセーラー戦士なのだ。 それに今日、学校の道徳の時間で習ったばかりだ。事故や事件に巻き込まれて、また重い病気などで身体に大きな傷を持つ人は社会には沢山いる。どうしてそんなことを急に思い出したのか、ほたるは分かる。醜い感情が心の奥底から溢れ出してくる。黒くて甘いドロドロが広がってくる。こんな傷だらけの醜い顔は嫌だ。あのパパとママにもらった綺麗な顔を返して欲しい。醜い。醜すぎる。 「げえぇっ、ええっ、げええっ……」 肉が露出した顔が歪んだ。粘液の水面を乱したのは、裂かれた唇から漏れた吐瀉物。亜美と食べた夕食のパスタが胃液といっしょに顎を流れ落ち、血で黒く染まるセーラー服の襟を汚した。 サイレンス・グレイブを手に取り敵に立ち向かえと戦士の魂が叱咤する。しかし、無垢な少女の魂は休息を求め、肉体とゆっくり乖離した。目の前で仲間の死を次々と見せつけられた心は、支えの糸が切れた凧のよう。セーラームーンがダークキングダムとの決戦で味わった絶望。 顔まで奪われながら、サターンの心は多くを要求しない。 ただ、心の試練を乗り越えるため、ささやかな時間が欲しかった。 しかし、スライムは未成熟な乳房を狙う魔手を侵攻させていた。スライムに肩下まで漬かるサターンは何も気付いていないが、胸を守る装甲は既に無力。攻撃の端末はプロテクタの内側、乳房とセーラースーツの生地の隙間に隙間なく充填されていた。 プロテクタの肩の隙間から、また襟元の肌の露出部から、体温とほぼ同じ温度で感知されることなく、少しずつ少しずつ流れ込んだスライム。今やサターンの肉に乏しい乳房は悪意のジェルに隅々まで覆われ、弾力や肉の厚さはもちろん、汗腺や乳腺の位置まで把握されていた。 粘液は襟元からレオタードの内側まで侵入して薄く広がる。手袋は機密性が無く浸透され、ブーツの内側も既に飽和。セーラースーツは陥落し、生肌とスライムは多くの場所で接触していた。プリーツスカートの結合部が膨れて壁となり、下腹部への侵入だけは辛うじて阻んでいるが、完全な陥落も時間の問題だった。
攻撃はほぼ同時に開始された。 エナジーを強引に奪われる苦痛は、全身に高熱のパイプを突き刺されて中身を吸われる感覚。スライムと接触した皮膚が焼けた鉄のように熱くなり、神経が擦り切れる痛みと筋肉弛緩の脱力感が倍々に膨らむ。殺してから行われるエナジー搾取を生きたまま実行され、サターンの肉体に猛烈な反応が起きる。 「いやああああああ! ぎゃああああああ! やああああああ!」 ほぼ停止していたサターンの思考は、全身を襲う激痛と高熱で一気に沸騰した。両手両足、首から腰にかけて何千本とパイプで刺し貫かれ、丸ごと内臓も血液も吸い出されると錯覚する。ファラオ90に侵入できる巨大なエナジーは無限の湧き水、搾取する側は遠慮なく貪れるだけ貪るのみ。神聖な戦闘衣の内側からのゼロ距離全身吸引に肉体は暴れるも、手足の拘束は固く解れることは無い。 そのとき、胸でもスライムが激しく動き始め、硬質化を開始した。 「むっ、むねっ? おっぱいっ!? まさかっ! いやああああああああっ!」 レオタードの内側、乳房を覆うスライムが鋼鉄の如く硬くなり、ブラジャーと化してサターンの膨らみにフィットした。太い針が無数に突き出し、ノコギリ状の刃が隙間無く蠢く凶悪な内側は、まるで岩着型海洋生物の裏側のようなグロテスクさ。凶器の塊は母性の象徴を磨り潰すように回転し、針で肉を深く抉り、刃で抉れた肉を耕して均していく。ぐちゃびちゃくちゃぴちゃ、ミキサーをかける音が響き渡り、まず乳首が消滅した。 「ぎゃあああああっ! やああああああっ!」 プロテクタの肩部と紫のスカーフから血肉が噴き出し、赤い煙のようにスライムの中に広がった。未成熟な乳房はすぐに柔肉を失い、同時に授乳の手段を永遠に戦士の少女から奪っていく。 「ひぎいいいいいっ! ああああああああ!」 エナジーを纏い肉体を強化しようと試みるもすぐに吸収され、スライムとの密着面を守ることは不可能だった。ミキサー音はゴリゴリと硬い胸板を削る音に変化していく。 (……される……このままじゃ、本当に、やられちゃう!) 「ひいいいっ! 許してえええっ! もう止めてっ! お願いしますっ! やあああああ!」 華奢な少女の肉体から爆発するようにエナジーが立ち昇るが、スライムに吸われてすぐに消えてしまう。サターンは股間に生温かい感覚が広がるのを感じていたが、もう羞恥を感じる余裕も無い。 セーラースーツの内側に潜む敵を、どうやって排除すれば良いのか分からない。マーキュリーなら低温のミストで活動を鈍らせることも可能だが、彼女は無残に戦死してもういない。 サターンは心身ともに限界を振り切れ、意識を失い首をガクリと垂れる。普通のセーラー戦士なら干乾びるほどエナジーを吸われ、全身を押し潰され、顔面と乳房を失い、肉体も精神もボロボロだった。 (このままじゃ……だ、駄目……意識が……遠く……) みんな、何もできなくてごめんなさい。 それが意識を失う前に彼女が呟いた言葉だった。 一方、スライムはどうすれば下腹部の穴を攻撃できるか考えていた。このままレオタード越しに進むのは時間を浪費するので、別の手段も試すべきと思考する。サターンが失禁していることに着目した。よく考えたら下腹部の2つの穴は、別の穴と繋がっているかもしれない。試してみる価値はある。 意識を失ったサターンの蒼白の顔に、無数の鋭い触手が再び殺到する。 「う、うむううあっ! ぐううっ! うむぐううううううう!?」 顔を掻き回す水音が聞こえて、サターンは数秒後に覚醒した。 両目と口に太い触手が挿入され、顔中から鮮血を噴きながら暴れるも後の祭り、唯一無事だった右目も潰されて視界は暗黒と化していた。目の中を好き勝手に掻き回される激痛に涙も出ず、喉奥に滑り込む触手の異物感に嘔吐するも吐き出せない。触手が暴れるたびに、顔の皮膚が剥ける音が聞こえてくる。 「――――――――――――――――っ!」 言葉にならない悲鳴は、純粋な絶望そのものだった。 顔の半分以上を潰れたトマトと化して両眼窩と喉の触手レイプ、胸元は文字通りの乳房の血の海。胸を削られ、全身からのエナジー搾取、さらに手足は動かず。セーラースーツの中からスライムの蠢く感触が伝わる。まだ何かをするつもりなのだ。華奢な肉体は心底の恐怖に震え上がる。 (助けてええっ! 誰か、助けてっ! お願い……誰か! 誰かああっ!) 拘束された手足で暴れ、頭を振り乱し、股間から汚物を漏らしながら、サターンは声無く絶叫して助けを求めた。顔から血が舞い散り、胸から溢れる血がスライムをピンクに染めていく。サイレンス・グレイブの気配を必死に探りながら助けを求める最強の戦士は、必殺技の実行を既に決心していた。下手に使えば核爆発ぐらいの威力になって街が吹き飛んでしまうが、このスライムを倒せるなら何でもする覚悟だ。 セーラースーツは無傷でも、このスライムを前にしては全裸に等しい。ようやく自分の防御の弱さに気付いたサターンは、一気に勝負をつけようと、手元に来るよう自分の愛鎌を必死に呼ぶ。そうすればサイレンスグレイブ・サプライズでスライムを消滅させることができる。 一方、激しく暴れる敵を確認してスライムは予定を変更し、次の攻撃を仕掛けるべく蠢き始めた。弱点だけを攻めるより、一気に総攻撃をかけた方が効果的かもしれない、と判断しながら。 土星のセーラー戦士とスライムの決着は、すぐそこまで迫っていた。
□『スライムVS土星の戦士』 1 2 3 4
|