薬座!
少女戦士が痛めつけられ、陵辱、捕食、グロ拷問されるリョナ小説。
09 | 2008/10 | 11
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『救世主ミリルのお仕事』 3-9「蟲の海、目覚める炎」

 それは、かつて黄金仮面が日本に来る前にいた世界。
 黄金仮面が全てを滅ぼし尽くす過程で起きた惨劇の、只1つ――。

 轟々と燃え盛る白い火球が魔法障壁を貫通して都市部に落下し、そこにいた数百の命が灰に変わる。直径300メートルの巨大高熱質量は地上の人々にとってはまるで太陽。都市を呑み込み、人々を呑み込み、なおも白く大きさを増し、人々を誘うかのように発光し続ける悪魔の球体だった。
「ああ、なんて綺麗な光なのだ……」
「あそこにこそ、恐怖も何も無い世界が広がっている……」
 逃げ惑う人々も、彼らを守る任務についている魔法使いや兵士たちも一斉に動きを止め、白い光を放つ火球に近づいていく。眼球に炎の白い光が焦げ付き、思考を混乱させ、炎に向かって歩き始める。
 彼らは逃げなければ焼け死ぬことを理解しながら、我先にと白い炎の球に向かい始めた。
 まるで、飛んで火に入る虫のように、人々は一斉に死への行進を開始していく。
 残像を目に残した者の脳を一時的に支配し、光への快楽を肥大化させて炎に近づくよう仕向ける。獲物を魅了し、引き寄せ焼き殺す人間ホイホイ。これこそが白炎の性質であり――精神撹乱系魔法と火炎系攻撃魔法を組み合わせを可能にした魔法改造人間"ヴィーヴァー"の能力なのである。
「あーあ、世界最強の城塞都市ってのがこの程度のものだなんて、拍子抜けを通り越して嗤っちゃうってものだわ」
 美しい肢体は白炎に変わってゆらゆらと揺れ、背中には同じく白炎で出来た翼がはためく。
 炎で形成された端整な女性の顔が凶悪に歪む下では、落下した白炎の球体が何千という命を吸い寄せては呑み込んでいた。まるで地上にぽっかりと白い穴が開いて、人々がそこに落ちていくように。
「ひっひっひっひっひ。私の炎で灰になるがいい! 下等な虫けらどもめ!」
 炎で形作られた少女が両手をかざすと、白炎の球体が無数に生み出されて新たに都市に降り注いだ。爆発音と悲鳴が轟き、陽炎が空気をぐにゃぐにゃ歪め、上昇気流が天の雲さえ押し流し始めていた。
「退屈すぎてつまらない。がっかりしちゃう。人類の存亡を賭けた最重要拠点って言うから期待してみれば、所詮は積木のお城も同然ってか、ははっ! ははははは! いや、魔法兵器たる私たちがスゲーからか!」
 数百平方キロメートルにもなる城塞都市に、同様の火球が雨のように降り注いでいた。天空を覆う障壁は穴だらけで役に立たず、人々は落下する火球から逃げ惑い、そして火球に吸い寄せられて灰と化していく。
「ねえ、お前もそう思っているでしょう、"クロノシスタ"」
 白炎でできた3本指の手を翳して、ヴィーヴァーは好戦的な浮かべながら呟いた。
 指の先にいる"クロノシスタ"と呼ばれた少女は、都市部でもひときわ高い塔の頂点に立ち、黒く短い髪を靡かせながら無表情にヴィーヴァーを見た。そこには怒りも、悲しみも、喜びも浮かんでいない、人形のような顔。無駄に豪奢な黒のドレスも相成り、等身大の愛玩人形がそこに立っているようだった。
「ヴィーヴァー、貴女のやり方は無駄が多すぎるわ」
 魔法改造人間クロノシスタはそれだけ呟くと、タクトを振るように両手を動かした。
 瞬間――城塞都市から悲鳴と絶叫の重奏が嵐のように沸き起こる。見渡せる限りにいる光景の全ての生存者が、一般人も兵士も魔法使いも関係なく恐怖の悲鳴を上げていた。彼らは例外なくあるものを凝視していた。
 それは、ほんの三分ほどのサイズの――砂時計だった。
 砂時計が人間1人に1つずつ、見渡せる限り全ての生存者に与えられていた。
 彼らの全員が脳内で理解させられていた。あの砂時計の砂が全て落ちたときに彼らは死ぬ。砂時計の砂量は彼らに残された時間そのものであり、死を免れるには砂時計を逆さまにして一定時間固定しておくことだけ。砂が全て落ちたとき彼らの身体は火を噴いて爆発四散してしまう。
 あまりにも理不尽で不条理な、さながら即死魔法と称して語弊の無い凶悪かつ無慈悲な攻撃が、超広範囲に渡って展開されていた。砂時計はするすると彼らの手を掻い潜り、彼らを弄ぶように逃げていく。
「待って! 待ってくれ! その砂時計を誰か捕まえてくれ!」
「止めて! それ以上砂を落とさないでええええ!」
 騒擾が都市中に広がり、しかも白炎もまた強大化して人々を呑み込もうとする。生死を決める砂時計と白炎の誘惑に襲われた人々は半狂乱になりながら右往左往し、秩序は完全に崩壊した。
「あなたたちの時間は、もうお終い」
 クロノシスタがそう呟くと、出現した全ての砂時計の砂が一斉に落下し尽くし、都市にいた人々は顔や腹から炎を噴き出して爆発し、欠片も残さずに消滅した。兵士も魔法使いも関係なく、まるで花火が次々爆発するぐらいのあっけなさで、何万という生命がこの世界から吹き飛んだ。
 この制限時間付きで人間を爆死させるという理不尽に強大な力は、直径10キロメートル近くまで有効範囲を広げることが出来る。クロノシスタの今の動作だけで、有効範囲にいた人々は全滅した
 それは殺戮という言葉すら生温い、神と称されても不思議ではない能力――それが世界の5/9を殺戮したと言われる魔法改造人間クロノシスタの、空間制御魔法と回復魔法と火炎系攻撃魔法、そして高等技術である魔力のマテリアライズを組み合わせた戦闘術。彼女の場合は「砂時計」だが、術者によって現れるオブジェは異なっている。
「ふう。すっきりしたわ」
 恐るべき大量虐殺を実行したクロノシスタは、無表情のままそう呟いた。
 しかし、それを見ていた、というか短時間過ぎて見ていることしかできなかったヴィーヴァーは、燃え盛る肉体を更に燃やしながらクロノシスタを睨みつける。憎しみは勿論、殺意すら迸る凶悪な顔だった。
「クロノシスタぁ、お前、私の獲物を横取りするとはどういう了見だ! 貴様は今回は傍観者のはずだろう!」
「だって、貴女のやり方ではとても予定通りに世界滅亡計画を進めることはできないから。『新月』メンバーで私たちだけがノルマをこなせずにホームに戻るなんて、貴女だけなら良いけど、私まで無能だと思われてしまう」
「て、てめえ、ぇえぇ!」
「私たちは『新月』、あの御方に与えられた使命を全うせずして価値は無い」
 『新月』――それこそが黄金仮面を崇める秘密結社の名前である。
彼女に創られた魔法改造人間と、彼女に同調する魔法使いや兵士の精鋭からなる秘密結社『新月』は、世界中に散り破壊活動を展開している。黄金仮面がこの世界を滅ぼして別世界の地に本拠を移すことを決めて以来、世界は急速に滅亡への道を辿りつつある。
 そして、その元凶こそが『新月』メンバーにして、1日で1つの国家を壊滅させていく魔法改造人間、ヴィーヴァーとクロノシスタである。そして2人の仲が非常に悪いのも疑いようの無い事実だった。
「ノルマはきっちりとこなすさ。ただし、不慮の事故でお前も死んだことにするがなクロノシスタぁ! 私の白炎に巻いて骨の髄まで塵にしてやるよ根暗女がっ! その済ました顔も貧弱な身体も焼き尽くして殺すコロス殺す!」
 三本指の先に無数の火球の種を生み出しながら、ヴィーヴァーは燃える肉体を更に燃え上がらせる。
「やるつもりならば仕方が無い。お前の時間はもうお終いよ、ヴィーヴァー。私の命の砂時計は貴女といえども決して見逃すことは無い。砂時計が落ちる最後の時間を噛み締めて永遠に失せなさい。このアバズレが」
 クロノシスタの全身に紋様が浮かび上がり、解放状態への移行を開始した。ヴィーヴァーが既に解放状態である以上、彼女も本気を出さざるを得ない。

 その日、城塞都市内部で、2つの異形が能力を全開にして激突した。

 …………………
 ………


「麗。すぐにそっちに行くからね」
 白炎の結界を解いた澪に蟲の大群が殺到し、悲劇に彩られた戦いは全てが終わったはずだった。
 しかし――風と共に赤い劫火が澪を包み込み、殺到してきた蟲や異形を焼き尽くして灰に変える。それは澪を助けるものではなく、澪もろとも焼き殺してしまうのが目的の攻撃に違いなかった。
 甲殻類と両生類が混じる生物が、羽を持つ微小の人間が、大量発生した虫たちが焼け爛れ、炎に呑まれて爆ぜ散っていく。それはまさに闇から生まれた生物が光に還元される様。
「ここまで巨大な炎を生み出すとは驚いたわ。何者だ。姿を見せよ」
 間接的な自害を邪魔された澪は白炎を衣服の周りに纏わせ、驚くそぶりも無く呟いた。
 幼き頃より炎に触れ合い、炎と共存して生きてきた澪には、周囲に突然炎が現れても別に驚くことはない。澪と炎は一心同体であり、炎は澪の体内を流れる血液が生み出す嬰児に等しいからである。
 かつて甲世に滅ぼされた異能者の里。人々に『炎人』の名で恐れられ崇められた存在は身体中の至る所から白炎を生み出し、それを攻守に使用しての戦闘を得意としたという。
 彼らの里が甲世に滅ぼされ、教育係を失った澪と麗の姉妹でさえ、5年で戦闘を行える炎使いに成長した。彼女たちにとって炎とは、手足と同じく自在に操れるよう根幹に刻まれた存在なのである。
 大きさにおいて澪の白炎は敵の紅炎に圧倒されていた。
 しかし、まるで頑強な一枚の白壁があるかのように、紅炎は澪まで届かず、肌を焦がすことは無い。
 炎が大きくとも、炎を操る技術において相手は澪に遠く及んでおらず、故に炎で勝ろうとも攻撃が通用しない。
 紅の炎を放った相手は上空にいた。
 炎と同色の翼を背中から生やした裸体の少女が、険しい顔で澪を見下している。
 外見は人間に近いが、手足の指は3本ずつしかない。そして、周囲には大小無数の火球が浮遊しており、全てが澪を狙いながら旋回を続けていた。
「まさか、逃げている最中に会えるとは思えなかった。直政様の愛を受ける炎使い。私がどれだけ励もうが決して代わることができなかった"お前"と、こんな場所で出会えるとはね――」
 異形の少女は顔に激しい嫉妬と憎悪を浮かべて澪を睨みつける。
「お前は何者だ? なぜ私を狙う?」
「これから私に殺されるお前に、それを教えても意味はないだろうがぁ!」
 甲世直政が隠れ里の『炎人』たちの血肉と、他生物を混ぜ捏ねて創り出した炎を使役する生物。
 幾多もの失敗と犠牲を出しながら、終に魔法改造人間として生を受けたキメラは今、オリジナルの炎使いと対面して感情を爆発させていた。
 決して再現できなかった。
 どうしても再現できなかった。
 あの――白き炎。
 オリジナルを越えられない原因が自分にあるのなら、それは創造主の甲世すら否定してしまう。もしくは甲世の能力の限界を自らが示してしまうことになる。
 異形の少女は主の否定をできず、それ故に逃げ場さえ無い。
「お前さえ来なければ、私は今まで通り、あの城にいれたのに!」
 しかし今、目の前のオリジナルを殺してしまえば彼女は自分を肯定できる。
「お前がいなければ、私が唯一の炎使いとして直政様の寵愛を受けれたのに!」
 自分が甲世の限界を示す証拠であるという事実から逃げることができる。
「私が本物になるんだ! お前を殺して、私が! だから、お前は死ねええええええ!」
 異形の少女は無数の火球を叩きつけるように澪を爆撃し始めた。退いていた蟲たちも勢いを取り戻して獰猛に澪へ攻撃を開始し、上空の蟲雲からは無数の甲世の『腕』が地上の獲物に向けて降下する。
 前後左右からの波状攻撃を前にして、澪の白炎の防御は余りにも小さい。このままでは攻撃に押し潰され、白い炎が永遠に失われるのも間違いないと思われた――。

 …………………
 ………

 しかし、このときの澪は既に、襲い来る敵など見えていなかった。
 澪の視界に広がるのは、甲世の能力に汚染されていない青い草原。日本に昔から生息していた虫や花たちが寄り添い、お互いに食う食われるの関係を維持し、生まれ朽ちる、純粋無垢な生態の『系』。
 幻覚ではない。甲世の攻撃で失われたと思われた光景が、今、ここに甦っていた。
 それは、さながら甲世から展開される新たな生態の『系』に対抗すべく、今在る日本の動植物が『系』を再生しているような光景。異形の少女に焼き払われた黒焦げの大地から、無数の芽と幼虫が瞬く間に成長して自然を再現し、澪を包むように広がっていく。

 虫。種。花。
 草。花。土。
 種。虫。草。
 花。土。種。
 土。草。虫。

 悪意に満ちた外界から切り離され、浄化された空間の中心で、澪は呆然と立ち尽くす。
 斯くも自然は美しく、調和され、生死で満たされ、大地を包み込んでいた。
 時間の流れが急激に遅れる感覚が満ち、復活した秩序の中で終に時が静止する。
 澪の目から熱い涙が零れ落ちた。
 悲しみでも喜びでもなく、感動の涙。
 それは自然の美しさや残酷さに対してではなく、虫や草花たちが使用している『術式』――その完璧な魔法への驚きと敬意が、涙に変わって澪の目から流れ落ちているのである。
 復活した虫や草花たちは、甲世の生物変異能力を逆利用し、自分たちを成長させていた。全ての動植物が魔法に被爆する中、姿形を変えず急成長することに特化したものだけが、在りの侭の姿で生き残る。
 その方法は鍵穴に鍵を通すがごとく甲世の特性に合致した。
 複雑怪奇な魔法理論を更に巨大な魔法理論で取り込んでいく。
 それは――自然の秩序の強さ。
 それは――甲世直政の未熟。
 十万本の花があれば、環境が激変しても数本は生き残るかもしれない。
 十万本で駄目でも百万本ならどうなるかは分からない。
 それは、条件が厳しくなればやがて"進化"と称される。
 草花や昆虫たちは甲世の影響を独自に料理し、高次の術式を構築して対抗を開始していた。
 自分たちの『系』を守るために。
 自分たちが住む地を守るために。
 人間たちが簡単に甲世に敗れて蟲や慰み物に変わる中、無力と思われていた人間以外の全てが。
 本来、その地に住む人間が戦うべき『侵略者』に、人間に代わって反攻を開始していた。
 自然という微小世界に澪は立ち、そして身を以て魔法を体感する。
 魔法で汚染された世界が別の魔法で焼き払われ、別の魔法で再生する。
 通常ではまず観測も知覚もできない、最も原始的な法則に動かされる世界。
 知覚不可能な高次世界の海を、澪は一瞬で渡り歩き、脳に情報を刻み込んだ。
(――――!?)
 そのとき、澪の脳に巻きついていた錠前と鎖が音を立てて軋み始めた。初めて存在を知覚できた強力な枷は、澪の脳味噌を雁字搦めにして、能力を大きく制限する封印だった。
(どうして、こんなものが私についているの……?)
 脳の機能を物理的に制限する枷を、澪の脳が排除しようと動き出す。見えないが存在している枷を、見えないが存在する手で殴るような実態の無い戦い。
 しかし、見えない手が激しく叩き、揺さぶる度に、枷は確実に綻んでいく。その枷は存在を知覚されてしまえば、後は壊されるだけの存在。発見させた時点で既に破られるのは決定的だった。
(これは、この枷が、炎を出す邪魔をしてる!?)

 かつて、この世界とは別の世界――。
 巨大な城塞都市を巻き添えで消滅させるほどの、大規模な衝突を引き起こした魔法改造人間がいた。
 名前はヴィーヴァーとクロノシスタ。
 黄金仮面の部下であった彼女たちの本気の戦闘は、皮肉なことにお互いの命を奪い合う結果を残して終幕した。原因は能力が強すぎ、能力に引き摺られて脳の機能がやや低下していたことだった。
 だから、黄金仮面は、彼女たちと同様の能力を持つ魔法改造人間には、ある種の封印を施していた。能力を制限し、手軽に扱えるような強さに調整し、実験材料や喧嘩要員として使えるように。
 そして、その実験体の封印が今、音を立てて――。

 澪の脳味噌を縛る鎖が粉々になると同時に、脳味噌の表面にびっしりと紋様が浮かび上がった。
 脳の皺の中まで隙間無く描かれたそれは、この世界とは異なる世界で使用されていた魔法文字。それが熱を帯びて輝き出し、循環する血液を通じて、電気信号を通じて、一気に全身に満ち満ちる。
 澪の顔から、手から、足から、胸から、内から湧くように無数の紋様が浮かび、全身を赤く染め上げる。
 聖痕現象に類似したそれは決して神の言葉ではない。
 魔法改造人間が本気になるときの、解放状態への移行の予兆。
 人間を捨てて、能力を存分に利用するための魔法儀式。
 全身を襲う苦痛は、まるで赤子が全身から這い出てくるような感覚。
 自分の内に存在し、今まで枷で封じられていたもう1人の自分が顔を出す感覚。
 澪の黒い毛は炎上して白い炎とゆらめきとなり、肉体は足からゆっくりと白き炎に包まれて実態を失い、終には顔の輪郭までもが完全に炎と化して風に揺れた。

 …………………
 ………

「え……どうして……こんな力がああああああっ!」
 異形の少女が思わず呟いた瞬間、発射した火球は白炎の渦に一瞬で吸収され、巨大な白炎の矢に撃たれて吹き飛ばされた。白炎は赤炎を貪り食うように吸収して増大し、一気に押し戻す。
 蟲雲から伸びてきた『腕』や大地を這う蟲は一瞬で灰に変わり、原型も留められずに四散していった。
「ぎゃああああああああああああっ!」
 炎に巻かれて吹き飛ばされたキメラ少女は全身を焦がしながら落下し、近くを流れていた大河に沈んで消えた。澪と同様に自分の炎で防御しようとしたが、防御の炎すら吸収されて撃墜される。
 彼女は他の動植物に比べて桁違いの生命力を有していた。
 致命傷ではないがしかし、しばらく動けないほどのダメージを与えれたと澪は推察する。
「私もまだまだ、甘いのかな。あいつは甲世の仲間なのに……どうして殺せなかったんだろう」
 澪は異形の少女を見逃した理由が整理できず、少し混乱していた。
 どう考えても理屈では説明できなかったが、自分の中の何かが彼女を殺めてはいけないと訴えていたのである。
 その感覚は親殺しをできないという感覚に近かった。あのキメラが澪の両親と兄の肉体を使って製造されたものであるとは、澪自身も想像の範疇外のことである。

『まあ良い。今は甲世を討つのが先』

 澪の言葉は既に人間の声としては出ず、炎が空気を震わして鳴らした楽器のようだった。全身に浮かび上がるのは魔法の紋様、満ち満ちるのはこれまでにない魔法の力。
 理解した、自分の凶悪な能力について。
 その能力はまさしく、かつて暴虐の限りを尽くした魔法改造人間ヴィーヴァーと同様の、破壊にしか使うことが出来ない悪魔の異能。とても、先に旅立った麗には見せられない邪悪な化物の姿だった。

『麗。私は貴女のいる天国には行けない。寂しいけど泣かないでね。その代わり――』

 もしもここで妹の麗が生きていたら、澪がその能力を使うのならば、それは邪悪なものではないと説いただろう。しかし、この場にはもう澪を肯定してくれる者はいない。
 澪が助けた老人でさえ、澪の行為を否定し、澪の正義を否定した。
 既に澪は、自分の正義を完全に見失っていた。
 だから、後に残ったのは敵への憎悪と自己嫌悪のみ。
 ただ暗黒の絶望の中で、戦うことしか出来ない哀れな魔物。
 澪の背中には巨大な白炎の翼が生まれ、周囲では無数の巨大な火球が生まれて浮遊し始めた。
 甲世直政や弥助同様、人間であることを捨てた魔法改造人間の解放状態。
 化物との戦いで、ついに自分も化物と化した。 
 化物に残された仕事はただ1つ。
 澪はようやく、長く苦しい戦いの中で、その決着と自分の死地を見出していた。

『あの蟲の巣にいる外道共は、私が全員地獄に連れていくからね――』

 目から溢れた涙は、流れることなく蒸発して消えた。
 綺麗な想いを全て捨て去り、ただ憎悪に我を委ねる快楽は、澪の心を優しく癒していった。




 第3章『甲世の城(前) 歴史の分岐点』了。
 続、第4章『甲世の城(後) 白炎の太陽VS暗黒の新月』。




『救世主ミリルのお仕事』 第3章 −甲世の城(前) 歴史の分岐点−
3-1「蟲の穴」
3-2「甲世の城」
3-3「鈴虫」
3-4「歴史の分岐点1」
3-5「歴史の分岐点2」
3-6「歴史の分岐点3」
3-7「蟲の海、白き炎」
3-8「蟲の海、煌く炎」
3-9「蟲の海、目覚める炎」 (現在ページ)

『救世主ミリルのお仕事』 第4章 −甲世の城(後) 白炎の太陽VS暗黒の新月−
4-1「白炎の太陽VS暗黒の新月1」


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Author:N
*― ―) 暇人のSS書き。華麗に武装した少女戦士や魔法少女の敗北萌え、陵辱萌え、拷問萌え。好きなシチュは汚されてドロドロ、小さいものウジャウジャ、囲まれてボコボコ、動けない、脱出できない、終わらない。
 好きな作品は最近は学園黙示録 ハイスクール・オブ・ザ・デッド。お気に入りは、うみねこシリーズ、舞Himeシリーズ、ネギま!、セーラームーン、封神演義等。

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