これは運命の歯車の反比例定数の狂いなのか、それとも必然かつ絶対のアカシックレコードのシナリオなのだろうか。とにかく今の私は黒い星の円盤生物が相手でも殴りかからんばかりに思考回路はショート寸前なので、奴の背景については平静を取り戻して滝にでも打たれつつ熊を倒してから考えようと思う。 「新しいアニメでも、先輩の嗜好回路はショート寸前ですねぇ」 何を訳の分からないことを言っているんだこいつは。まるで別世界の住民のようなことを先程から垂れ流しやがって。ただ1つ確かなことは、奴は私にとって相容れぬ存在であり、倒すべき敵でしかないということだ。 「にぱー、これからもクラスメイトとしてよろしくお願いするのですよ、桜咲刹那センパイ。とりあえずジャムパンと午後ティーを買ってくるのです」 「くっ、むかつく! 貴様は目上の者に対して敬語の使い方も知らないのか!」 フリフリしてヒラヒラしている空気抵抗の大きそうなピンクの洋服。違和感がなさすぎて逆に怪しい水色のロングへヤー。 教壇の上で長短の2刀を振り回して腰を毒蛇のようにくねらせ、はしたない妙なポーズを決めている1人の少女。 この脳味噌の代わりに蟹味噌が詰まっていそうな女は、名は月詠というらしい。 「国語の偏差値■■■■のせっちゃん、ついに自爆スイッチを押す!」 「うるさい! 貴様にせっちゃんと呼ばれる筋合いはない!」 「では、セッチャーン!」 「フランス人っぽく発音しても同じだ!」 どこの国から来たエイリアンだと思えば日本出身で、どこの超常選民同盟の所属だと思えば私と同じ京都神鳴流だった。2〜3週かければ倒せる敵キャラだと思えば今日から私のクラスメイトになるというではないか。これは関西呪術協会の罠なのか。 悪夢の始まりは朝のホームルームの、ネギ先生の何気ない言葉からだった。
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「今日はみなさんに、新しいお友達を紹介します。関西から転校生の方が来ました!」 「転校生っ!?」 椎名さんはアンパンマンを水に浸して食べんばかりに巨大な口を開いて祭の火蓋を切る。弾が発射されれば暴走したら王蟲と化すこのクラスでは、転校生イベントなどキャンプファイヤーに手榴弾、カレーライスに福神漬け、単調増加を無限大、ロリコンにバックベアード、瞬く間にクラスはメルトダウン寸前の臨界大騒ぎになった。 釘宮さんと椎名さんはキャラ属性トトカルチョを始め、鳴滝ツインズは走り回り、朝倉さんは特ダネを逃したのを悔しがり、ポルターガイスト現象で無人の机が揺れる。 楓は例によって傍観者に徹するつもりらしい。静粛にと呼びかけるいいんちょさんの向こうでは、憂鬱そうな顔の長谷川さんが諦めに近い流し目で遠くを見ている。 騒音は窓を割らないし大地を裂かない。 「転校生ですって! 大変よのどか! 夕映! 転校生よっ、転校生が来ちゃうのよ! もう平和な生活は終わりよ! 転校生よ! 転校生が来るんだもの!」 「何をそこまで狼狽しているのですかパル。転校生が来ると寝癖が酷くなる病ですかあなた? まさかライトノベルよろしく、転校生が宇宙人または未来人または魔法使いとでも言うのではないでしょうね?」 「もしかしたら宇宙人かつ未来人かつ魔法使いかも知れないわ! いい? 転校生は嵐の前触れ! 主人公のライバル! 次の日からは怪事件続出なのよ! 来たらきっと禍を招くっ! 明日の放課後にはきっと、ちょい役の生徒が謎の怪物に襲われるわ!」 「わ、わ、わ、分からないよハルナ、あ、あ、あ〜、な、な、な、何言ってるのかさっぱり、わ、わ、わ、分からない、あぶぶ、酔うっ。よ、よ、よ、酔っちゃう。酔うって。頭を振らないで! うぶう! うっ、うぷっ、ネギ先生の前で吐いちゃう!」 「ゲリピーになった某ヒロインだっているから大丈夫よ!」 早乙女さんは迫り来る世界の危機を予知した顔で、宮崎さんの襟を掴んでがくがく揺らしている。 宮崎さんは顔面蒼白で今にも異変が起こりそうだ。 「八つ墓村の入り口にいるババアですかあなた? だいいち、宇宙人で未来人で魔法使いなんて、そんなキワモノ、いたらドン引きでは済みません」 綾瀬さんは呆れたようにそう言って、持っていた巨大な本で早乙女さんの後頭部を殴って黙らせる。明らかに人を殺せる角度だった。 「早乙女さんが強い電波をキャッチしました。汚染を除去しますか? マスター」 「知るかそんなもの。今は大事なところだ。話かけるな」 「はい、マスター」 PSPの説明書を読んでいるハイ・デイライトウォーカーは、それだけ言って別の世界に戻っていった。 ふと見るとチャオさんが、とても傷ついた顔をして放心していた。今の流れのどの部分で彼女が傷ついたのかは不明だ。 「……! ……! ……! ……!」 なんだろう? 空耳だろうかと思ったら、クラスメイトの、名前は何だったけ? 少女M・Kさん(便宜上の仮名)が何かを必死に訴えていた。 「今日の晩御飯はカレーにする? シチューにする? 肉じゃがにする?」 「あやかの好きなシチューにしましょう。材料はみんなあったわよね?」 存在感のないM・Kさんの声は那波さんと村上さんには届かなかったようだった。そんなうちに私もM・Kさんを見失ってしまった。教室のどこにもいないがそんなはずはないので、おそらく私の視界に入らないどこかにいて、誰かに何かを言っているのだろう。きっとどこかに彼女はいるはず。コマとコマの間……じゃなくて、きっと、みんなの心の中に。 「なんで私だけネタが書き直されてないのよ!」 何か聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだろう。関係ないが、窓を見ると美しい空が広がっている。 「亜子、関西から転校生なのに、どうしてそんなにグロッキーなのよー?」 「う、うう……ゆーな、アキラ……ウチのことはほっといて……うぐう……」 明石さんの心配そうな声に和泉さんはどんよりとした表情で、細々とそう言った。 たまに体調が悪そうな彼女だが、今日はいつもにも増して具合が悪そうだった。 「亜子、どこか具合でも悪いのか? また私は保健委員を保健室に運ぶの?」 「アキラ、ちゃうねん。なんか変な夢を見ただけやねん。ウチが実験器具フェチの変態で、裕奈が軍ヲタで機関銃に憧れてて、アキラが山本で、いやああ、このかが婿養子で一条さんのチュパカブラがTシャツに!」 「な、何言ってるの、亜子!? 私、軍ヲタじゃないよっ!?」 「ぱに、ぽに……だっ…しゅ……がくっ」 「あ、亜子、しっかりして! チュパカブラがどうしたの!? 亜子っ! 亜子ぉっ!」 「裕奈、展開についていけないんだけど」 そこにザジさんが無言でやって来て、ぽん、と煙といっしょに黒いマクラを出現させる。 「黒いマクラは、ああ真っ暗」 「1点」 クラスの喧騒から逃れるように、和泉さんはマクラで幸せそうな顔で眠ってしまった。龍宮とザジさんの意味不明の会話は聞かなかったことにしよう。 「皆さん、静かに。では入ってください。京都から来た月詠さんです」
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ネギ先生が黒板に名前を書いた。どうもカタギとは思えない名前で、私は少し悪寒を感じていた。ガラガラと扉を開けて入ってきた女はとろりとした目の少女で、髪は白に近いブルーで腰の辺りまである。 何か得体の知れない、お弁当にカステラを一箱持ってきそうな不思議な空気を感じる。 「初めましてみなさん、京都からやってきました」 月詠は「え〜い」と間抜けな掛け声といっしょにジャンプし、麻帆良の制服を脱ぎ捨てた。制服の下からヒラヒラしてフリフリした奇怪なピンクの洋服が現れる。空中でくるくる回転して教壇の上に立ち、長短の刀を懐から取り出すと、そこでスカートが下着が見えない微妙なライン上でふわりと波打ち、長短の刀は天井の蛍光灯の光を受けてきらりと輝く。そうなることを明らかに狙った演出だった。 「神鳴流、それは古来より続く戦いの歴史――」 月詠の全身からピンクのオーラが立ち昇る。間違いなく「気」だが、どうやって着色しているのか分からない。 凝っている割には妙に安っぽい色である。というか今、しんめいりゅうと言ったのか? 「人々の笑顔を守るため、剣と魔法で魔物たちと戦う戦士の末裔、それが私であり桜咲センパイ!」 私が硬直している間に、奴はクラスメイトたちを見渡しながらウインクをして、よく通る声で叫んだ。 「神鳴流剣士、月詠推参!」 そこで胸元で長短の刀をクロスさせ、凛々しい顔を5秒ほど。 クラスから今度は、何とかレンジャーショーを見に来たちびっこたちのような歓声が上がる。 確かに神鳴流の歴史は戦いの歴史だし、人々を守るために剣と魔法で戦うし、末裔というのはアレだが、説明自体に大きな間違いはなかった。しかし、クラスメイトに神鳴流の方向性を激しく誤解された気がしてならない。 そんなことより、どうしてこいつは極秘事項をあっさりと流出させているのだ!? 「なかなかやるじゃねーか」 長谷川さんがなぜか真面目な顔で月詠を評価している。 「さあ、センパイも早くバトルコスチュームにマテリアライズしてくださいっ!」 「訳の分からないことをいうな! なんだ、その下品な! そ、それに、し、神鳴流のことをあっさり漏らして……!」 「この後に及んでまだ覚醒していないなんて、神鳴流剣士月詠は、とっても御機嫌ナナメだわっ!」 「うるさい黙れ! 哀しそうな顔をするなっ! 無駄に目をキラキラさせるな鬱陶しい!」 「あの、桜咲さん、月詠さんの自己紹介の最中なので、少し静かにしてくれませんか」 ネギ先生は私にそんなことを言ってくる。ブルータスお前もか、て言うか少し泣きたくなってきた。 「ネギ先生! だっぽん!」 こいつはわざと私を怒らせようとしているのに違いない。きっとそうだ、間違いない。 「はっ!? 危ない先生! 逃げて! 早く逃げてください〜!」 月詠が甲高い悲鳴を上げてネギ先生を見た。クラス内にも正体不明の緊張が走る。 「センパイを怒らすとキンタマを握り潰されますよ! センパイはその技で発情期の熊をも昇天させるテクニシャンです!」 「そう、先生のタマも握り潰して……って、そんなことするかっ! しません! しませんってば!」 「ふー、びっくりした。でも、それって本当なのかなあ」 朝倉さんがにやにやしながらこちらを見てくる。嘘に決まっているでしょう! 「貴様ぁ! それ以上何かを発すれば道頓堀川に叩き込むぞ! でも、熊のオチンチンはとってもたくましくて、一度握ると病みつきになるのは事実だ! あの熱い肉がどくんどくんと脈打つと、私の肉がじんじんと疼いてきて」 「私の声を真似て、いかにも私が言っているように卑猥なセリフを吐くなぁ!」 「……せっちゃん」 このかお嬢様が悲しい顔で私を見ている。 「違う! 違うんですお嬢様っ! これは罠です! さっきの問題発言は月詠のセリフです! あっ、ネギ先生そんな、本当に逃げないでっ!」 逃走しようとするネギ先生を追おうとした私の前に立ち塞がったのは、鬼気迫る顔の3人だった。 「せ、せんせーのおちんちんを潰さないでください! お願いします! もしも、治らなくなったら私!」 「ネギくんのさくらんぼは私が守るもん! しゃせいも出来ないのに潰しちゃうなんて可哀想だよ!」 「ネギ先生の金の宝玉を潰そうなど、この雪広あやかの目の黒いうちはさせませんわ!」 宮崎さん、佐々木さん、いいんちょさんが近づいてくる。何だこの状況、何だこの痴女軍団。 どうするの私!
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それから冒頭の会話やら、他にも色々なことがあったのだが、結局誤解を解くことはできなかった。 「くっ、龍宮、お前からも言ってくれ! 私はキンタマを握り潰すような女ではないと!」 「ん? 何の話だ? 私には熊のブツを愛でる奴のことは分からんな」 色黒巫女スナイパーにしてガン=カタ使いはそっけなく視線を逸らした。感情を薬物で抑えこまれているのではなく、騒動に巻き込まれるのがイヤで知らぬ存ぜぬで通すつもりらしい。 「でも〜、3人でネギ先生のタマを守るとなると、1人0.67個になっちゃいますね〜」 「ならば、このチャオの超科学の結晶、男性器増殖銃でネギ坊主のあそこを増やせばオーケイ! もう10本ぐらいにしちゃおっかネ!」 律儀に割り算をした葉加瀬さんの意見に対して、チャオさんはゾウをモチーフにした銃を取り出してくる。ゾウの鼻が発射口、牙がトリガーになっていて、ドラえもんやお化けのホーリーで登場しそうなデザインだった。 「男性器増殖銃、発射!」 パオーン、という発射音が鳴り響き、ゾウの鼻孔から青いビームが発射される。謎のビームは一直線にネギ先生に向かわずに曲がってこっちに来たっ!? ばちばちばちばち……! 「きゃあああああああっ!」 超さんの笑う声が遠くで聞こえた。 「あちゃー、ゾウさん鼻詰まりネ。刹那さん、今日からオチンチン10本のふたなりヨ」 「もう、いやああああああああああああ!」
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「貴様は、私を題材に何を書いているのだ!」 「妄想小説を書くのは神鳴流の業ですよぉ〜」 今日もまた、原稿用紙を持って逃げる月詠を刹那は追う。書かれたのは、破廉恥な刹那の小説。 「待てぇ!」「待ちません!」 物静かだったクラスメイトと転校生のそんな光景を見て、他の者たちは笑みを浮かべた。 「仲いいよねー、あの2人」
HAPPY END
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