「マーキュリー・パワー! メイク・アップ!」 天に翳した変身ペンから聖水が溢れ、亜美を優しく包み込む。聖水の奔流はリボンのように亜美の肉体に絡み付き、爆ぜるような波紋を残して戦闘衣に変化した。 海を思わせる青い髪から額に金のティアラが装着され、純白のレオタードに青いミニスカートがはためき、胸を守る白いアーマーにリボンとスカーフ。腕には純白の手袋、しなやかな足には膝まであるブーツを履き、 柔らかな唇に淡い紅が添えられている。
「セーラー服美少女戦士、セーラーマーキュリー!」
水野亜美はIQ300の天才少女。そして水星のセーラー戦士である。 今、彼女の前にいるのは凶悪な妖魔だった。硬い鱗で皮膚を覆い、オレンジ色の眼を光らせる異形。上半身と足は金属の装甲に覆われ、両手には鋭いハサミが光る。 そしてダーク・キングダム四天王の1人、ゾイサイト。 「やれ、妖魔ブンボー! セーラー戦士を倒すのよ!」 体当たりを仕掛けたブンボーの分厚い装甲が、マーキュリーの胸と顔に激突した。余りの体重差に彼女の足が宙に浮き上がり、華奢な肢体が宙に舞った。 「きゃあああっ!」 吹き飛ばされたマーキュリーが樹に激突する。普通の人間ならば上半身が腰から切断される衝撃。セーラー戦士と言えども無傷で耐え切れるものではない。 「うっ……ぐ、あ……ああ………」 樹の根元に崩れ落ちたマーキュリーの視界に、ブンボーの姿が映る。傷つきながら立ち上がるもヒザを着いてしまい、背中のレオタードには血が広がった。 それを責め時と判断したのだろう。ブンボーは人間の手足も簡単に切断できる巨大ハサミを光らせ、前のめりになってマーキュリーに突進していく。 「シャボーン・スプレー!」 マーキュリーはエナジーを両手に集中させ、低温のミストを生み出してブンボーに放出した。低温の霧が少女と妖魔の姿を隠していく。 全身に絡みつく鈍痛に耐えながら戦略を構築しなければならない。バイザーを装着し、コンピュータを取り出して相手の力量を解析する。 (接近戦になればパワーではとても敵わない。何とか距離を保ちながら……えっ!?) バイザーに映る反応に、マーキュリーの顔から余裕が消える。ブンボーは正確に敵の位置を把握して、巨大ハサミを投げつけてきていた。 高速回転するハサミがマーキュリーの右肩に突き刺さる。刃は肩を切断して骨を断ち、抉られた断面から赤黒い血が溢れた。純白のセーラースーツに赤い滝が流れ落ちる。 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!」 激痛に耐えるマーキュリーに再びハサミが飛び、左足を斜めに深く切り裂いた。ぱっくり裂けたブーツから黒い血液が流れ出し、感覚が激痛に呑み込まれていく。 「うあ゙あ゙……あ゙あ゙……あ゙……っ! なんて、攻撃力、なの……」 苦痛に顔を歪めるマーキュリー。目には涙が溜まっているが、戦士が戦いの最中に涙を流すような屈辱だけはしまいと、歯を食いしばって耐えている。 セーラー戦士の戦闘コスチュームを易々と貫通する攻撃力。データによる戦闘ノウハウしかないマーキュリーにとって、あまりに想定外の危機だった。 (このままでは……やられてしまうわ……) 激痛に苦しむマーキュリーにハサミが突き出され、左脇腹が裂けて血が流れ出した。攻撃力でも防御力でも劣る以上、接近戦になればマーキュリーの勝ち目は薄い。 「……私が解析だけが能だなんて……思ってないでしょうね!」 マーキュリーはハサミに怯まず、あえて妖魔に対して攻めに出た。左の拳を思い切り握り締めて渾身のパンチを放つ。最早、徒手空拳による戦闘しか選択肢がなかったのだ。 「はあ! たあ! やあ!」 マーキュリーのパンチは何度もブンボーの身体を打つ。 分厚い金属の鎧にパンチが叩きつけられる度に、鈍い音を残して少女の拳が軋んだ。指に激痛が走って力が抜け、手の甲や手首にまで痺れが広がる。やがて拳が握れなくなり。手袋は破れて皮が剥け、血が滲み出してきた。 しかし、ブンボーは微動だにせず立つ。パンチが効いているようには見えない。 「ま……まだまだ! これからよ!」 鮮血で染まる右手を力なく揺らしながら、壊れた拳を繰り出すマーキュリーの左腕を、ハサミが思い切り叩き落した。ボキンと鈍い音を立てて腕が曲がる。 「…………!」 レベルが違いすぎる。そのことをまざまざと悟るマーキュリーの右太腿を、武骨な刃がブスリと貫通する。溢れ出した血液が貫通した刃の先端に集まり流れ落ちた。 ブンボーはハサミを左右に回転させて太腿の内部を掻き回す。激痛に目を見開いたマーキュリーの顔を、閉じたハサミが思い切り横殴りにした。 (私は……ここまでなの……) マーキュリーの顔から割れたバイザーがバラバラに散り、左頬が開いて血が噴き出した。ハサミが右足からがズブリと引き抜かれ、身体を傾けながら健気に悲鳴を噛み殺すボロボロの天才少女を、ブンボーの巨大な足が蹴り倒す。 折れた左腕は地面に激突して別方向に曲がり、裂けた左頬が地面に削がれて傷がザクロのように広がった。マーキュリーは苦しげに血を吐き出したまま動けなくなる。 ドスン、ドスン、と聞こえてくるのブンボーの足音に、マーキュリーは震え始めた。涙でぼやける視界で必死に周辺を探り、どす黒く腫れ上がった顔に恐怖を張り付かせながら、呼吸を整えようと胸を苦しげに上下させる。 天才少女の霞む視界に見間違えることのない黒い影が映る。 ブンボーがマーキュリーの胸を巨大な足で踏みつけた。胸アーマーをベキバキと踏み潰し、奥に隠れた乳房を圧迫していく。手足が動かなせないマーキュリーは蹂躙されるがまま。天才的な頭脳もスズメの涙ほどの力にもならない。 「あああっ! うああっ! あっ……ああ……!」 パラパラと胸のアーマーの破片が飛び散り、ついに乳房が露出した。 無骨な足がグチャグチャと踏み躙るたびに乳房は裂けて血を流し、内出血を起こして青黒く変色していく。ブンボーはそれでも乳房を踏み躙るのを止めない。青紫に変色した肉を押し潰して血を母乳のように搾り、裂けた肌に土を擦り込んで足の裏で捏ね回した。 拷問ですらなく、それは破壊。女性の母性の象徴を蹂躙される苦痛は亜美の、そしてセーラー戦士としてのマーキュリーのプライドをズタズタしていく。 (……ち、力が欲しい……妖魔と戦える、みんなを守れる、もっと強い力が欲しい……) マーキュリーの顔を、ブンボーが無造作に踏みつける。ブンボーの足の裏にファースト・キスを奪われながら、今は屈辱的な仕打ちに耐えるしかない。 「クイン・ベリル様に逆らった者の末路ね」 観戦していたゾイサイトが地上に降下して傷心のマーキュリーを嘲る。ゾイサイトが指を鳴らすと紫の薔薇の花弁が渦巻き、不可視の力が彼女の肉体を引き起こした。 しかし、垂れ下がるマーキュリーの四肢には力の欠片もない。視えない十字架に貼り付けにされたように、彼女の身体は地上から数十センチの場所に固定される。 「はぁ、ぁ……はぁ、ぁ……はぁ、あぁ……はぁぁ……あああ……」 マーキュリーの青い髪はグシャグシャに乱れ、土がぱらぱらと落ちている。 ゾイサイトの魔力によって空中で身体を拘束された彼女は、真っ赤に充血した目から涙をボロボロ零して、土と血で汚れた顔を震わせていた。 壊された乳房を晒しものにされた天才少女には最早、清廉で勇ましいセーラー戦士の面影は無い。しかし、知性も勇気も恐怖と絶望に押し潰される中、それでも戦士としての最後の信念か、息も絶え絶えになってなおゾイサイトを睨んでいる。 「ふふふ、無様な姿ね、セーラーマーキュリー」 ゾイサイトの拳が、気丈に自分を睨むマーキュリーの顔を殴り始めた。 「うあ゙っ! あ゙あ゙あ゙っ! きゃあ゙!」 血で汚れて腫れ上がる顔に無慈悲な拳を受けるマーキュリー。悲痛な声はすぐ呻き声に変わり、目は光を失い濁り始める。ゾイサイトの怪力が彼女の脳をぐらぐら揺らしていた。 「眠るのはまだまだ早いわよ!」 ゾイサイトのヒザが腹部に連続で叩き込まれ、赤い胃液を吐きながら覚醒させられる。髪を引っ張られて頭を起こされ、顔をまた殴り飛ばされる。 (……あ…………あ……) ブンボーは巨大なハサミをマーキュリーに向けて振り上げる。 亜美は知る由もなかったが、その光景は以前より余地されていた「巨大な刃をマーキュリーをズタズタにする」妖魔の姿そのものだった。
ハサミがマーキュリーに振り下ろされた。 どれだけ優しい心を持っていても、力無きセーラー戦士に未来は無かった。
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