白銀の甲冑を身に着け、雪のように白いマントを纏い、腰にすらりと長い聖剣を納め、騎士となる少女たちは多くの神官や王族、貴族たちの視線の中を歩いていく。 前に座るのは王国の姫にして、この儀式の巫女を務める少女である。白いドレスの上に金色の甲冑と兜を身につけ、藍色の長い髪をふわりと靡かせている。伝説の戦女神の姿を模した姫装束の鎧は、代々王家の女性に受け継がれる武具であり、闇を払う力があると言い伝えられていた。差し出された姫の小さな手に、騎士の少女たちはキスをする。これは主従の証であり、姫の兵として身を捧げることを意味していた。 この王国には、魔力の非常に高い女性騎士のみで構成された部隊、王宮女神騎士団が存在している。その選考は厳しい。 まず、光属性の魔法が使用可能な条件として、潜在魔力が大きな処女でなければならない。さらに相応の戦闘力と魔法学の知識が要求される。選抜を潜り抜けた王国騎士学校の女生徒から毎年何名かが選ばれ、王国を守る魔法剣士としてさらに修行の日々が続く。大半の者は脱落するか逃走するかで、誰も残らない場合もある。それだけに選ばれた彼女たちは精鋭中の精鋭と言えた。 年齢と共に魔力が衰え始めれば、引退して別の隊に配属される。魔力のピークが十代後半辺りであるので、騎士団の構成年齢は総じて若く、子供に部類に入るものも多い。姫に身を捧げたので、騎士団にいる間は純潔を保たなければならず、毎日の修練は勿論のこと、命を賭した危険な戦場にも駆り出される。それでも少女たちは皆、王宮女神騎士団に憧れる。 騎士を出した家には末代まで相応の名誉が与えられる。怪物などを追い払う国民の希望の星として尊敬される、名誉ある称号なのである。 (私も今日から、小さいころから憧れていた女神騎士団になれるんだ) 少女騎士たちは至福の思いで、姫に忠誠のキスをする。 交わりたい男性はいるが、それに勝る夢がある。 「おめでとう」 華麗の武装した姫の柔らかな笑みに、少女騎士たちの顔も少しほころぶ。少女たちを囲むのは、主君と、そして新しい仲間を歓迎する女神騎士たち。輝かしい未来が始まることを、少女騎士たちは信じて疑わなかった。 しかし、数ヵ月後、不意を突いて侵攻してきた隣国の圧倒的な軍勢に、王国は戦わずして降伏することになった。王宮女神騎士団は徹底抗戦を主張したが、王の決定には逆らえず、力を振るうことなく隣国の捕虜にされてしまった。 隣国は、姫の護衛に王宮女神騎士団をつけることを許し、さらに武器と防具の携帯を認めた上で、国外追放の処分を下した。姫を処刑しては占領統治すべき王国の民の反発を招く。そう踏んだ隣国の決定だった。
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深い森林が広がって太陽を覆い隠し、湿った腐葉土が厚く積もっている。 「私たちは、これからどうなるのでしょう……」 神事に用いる金色の甲冑と兜を付け、細い手に似合わない王家の宝刀を握り締めた姫は、自分を守る騎士団の前で毅然と振る舞おうとした。しかし、置かれた状況が理解できるからこそ、天使のように慈愛に満ちた表情にも陰りが見える。隣国は姫に王家に伝わる甲冑と宝刀を与えたが、剣の腕前は素人同然である。しかも魔力が封じられているので、魔法も使用することができない。 姫だけではなく、王宮女神騎士団の少女騎士たちも同様に魔力を封じられ、初級の魔法も使えなくされていた。魔法で身体能力を高めて武器を強化し、攻撃魔法と剣の波状攻撃で敵を討つのが、王宮女神騎士団の主な戦闘スタイルである。しかし魔力を封じられては、彼女たちは上質な鎧を装備している女騎士の集団にすぎない。 そして、彼女たちが今いるのは、決して近づいてはならない大陸の最果ての密林だった。ここは未知の怪物が跋扈しており、人間を好んで襲う怪物も多数生息していると推測されている。高名な騎士団や魔法使いも、この密林に探検に出て帰ってこなかった。ここでは人間は食われるだけの弱者に過ぎないのだ。 隣国は転移魔法で、魔力を封じた姫と王宮女神騎士団60名を、その禁断の地の奥の更に奥に送り込んだ。国外追放とはいえ、それは「怪物に食われて死ね」と言うに等しいものだった。魔法も使えず馬すらいない状況で、何日も森の中を進まなければ、ここから脱出することはできない。無事でいられるはずがなかった。 しかし、王宮女神騎士団は剣を抜いて守るべき姫の前に立つ。力を封じられた不安はあるとはいえ、彼女たちは厳しい修行を続けてきた精鋭の騎士なのである。剣を用いた戦闘力も他の騎士団より優れており、それは自他共に認められている。 「ご安心ください。たとえ魔法が使えなくても、私たちは姫様をお守りします」 「その通りです。姫様」 「私たちが魔物なんて、追い払ってやります!」 「ありがとう。貴女たちだけが頼りです」 凛々しく頼もしい、そして美しい少女騎士たちの顔。それを見て、姫の不安は少しだけ和らいだようだった。 しかし、姫が僅かに安どの表情を見せて少女騎士たちと話している頃、無数の獰猛な気配が騎士団の様子を覗っていた。しかし、魔法の使えない彼女たちは気付くことができない。普段の彼女たちなら索敵魔法ならすぐに察知できるが、人間の五感だけでは野生の魔物の気配を感じるのは難しいのだった。
『とある少女騎士の話』 前編 中編 後編
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