蟲の巨大巣の底に下りると、聞こえてきたのは巫女軍団の悲鳴と嗚咽だった。 甲世討伐のため幼い頃より修行を重ね、正義のために戦う教育をされてきた少女たちが、蟲に肉体を食い荒らされ、汚物に塗れてのたうちまわる声、そして音。 クリスタルの力で傷ついては回復を繰り返し、決して死ねない数千の正義の少女たちの大合唱が、暗黒の洞窟に反響して響いている。 「左近さんたら、私にまで隠してこんな子たちを育てていたなんて、油断ならないわぁ」 解放状態になり、全身から大小無数の針を生やしている異形の女が、くすくすと愉快げに笑った。 彼女、瑪瑙姫は最早人間の姿をしていない。魔法改造人間に変化した某大名の姫は、獲物の全身に針を突き刺し、不可視の力で相手の思考を支配する異能者だ。 人々を救おうと立ち上がる美人剣士や女武士を捕らえては、剣山を敷き詰めた部屋に転がし、全身をサボテンのようになるまで針を刺し、電流を流して弄ぶ狂人。 針を無数に生やした手をゆらゆら動かしながら、蟲の洞窟をゆっくりと移動している。 「ふふふ。瑪瑙姫に知らせると、どうしても他の関係ない者にまで伝わってしまいますのでねえ。心は痛んだのですが、内密にさせて頂きました。埋め合わせは必ず行いますとも」 永山左近は上品に微笑みながら、甲世の生み出した巨大蛍に誘導されて、蟲の洞窟を進んでいく。 表では反・甲世の立場をとる2人の『新月』は、他の者よりも早く蟲の巣穴に下りていた。目的は勿論、自分たちが送り出した討伐隊の苦しむ様子を見るためである。 基本的に、レオタードの巫女隊を育てたのは左近であり、主導権は全て彼にある。瑪瑙姫は関与してはいないが、同じ勢力(諸大名軍)に属する縁で付いてきていた。
目を付けられたのは、中頃にいた獲物だった。 巫女の1人が、巨大な蜘蛛の巣にかかって泣き叫んでいた。 両腕は左右から巨大な蜘蛛に食い千切られ、肩からは骨が数寸ほど露出して血が噴き出していた。引き裂かれた腹からは内臓が垂れ、白い蜘蛛の幼虫がわらわらと群がって臓腑を食い荒らしていく。 「やめ、ろ……やめろ、ぉ……わたしは……お、おまえ、たちの、えさじゃ、ない……」 巫女服のレオタードは蟲の糞と血に塗れ、泥が付着して真っ黒な有様。使用していた光の剣は輝きを失い、蟲の体液に固められて壁に張り付いていた。かつての美しい姿は見る影もない。 腕を食い散らかした二匹の蜘蛛は、それぞれ少女の下腹部と顔部に向けて素早く移動していく。そして牙を剥き出しにし、獲物の美顔と女性器を、音を立てて貪り始めた。 「うぐううっ! ぎゃああ! あああああああああ!」 端整な顔の、左頬の肉から眼球までが同時に抉り出された。下腹部では肉豆を噛み砕かれて、乾いた膣道に無理に侵入され、蜘蛛の胴体の半分ほどが陰唇の奥に潜り、鮮血が二筋流れ落ちていく。 「ぎゃああああ! 殺してっ! もう殺してえええええっ!」 少女は黒く汚れた顔から涙を伝わせ、頭を弱々しく振る。 蟲に喰われるのも、陵辱されるのも既に数十回は経験しているはずだった。ただ、魔法のクリスタルが肉体の損傷を回復させてしまうので死ぬことはない。 蟲に全身を食い荒らされ、陵辱されては回復させられる、単純にして絶望的な拷問。悲鳴と共に少女の正義の心は崩れ落ちていくが、クリスタルは発狂寸前で少女の精神をリセットする。 美しい心を保存され、鍛え上げられた肉体を維持され、少女は苦痛に泣き叫ぶ。 「きゃはは! 玩具、みぃーつけた! これにけってーい!」 瑪瑙姫の針だらけの腕が、蜘蛛の巣にかかる巫女少女の顔を握り締めた。果実を握りつぶしてジュースを作るように、少女の顔は水音を立ててひしゃげ、眼球や肉や血がどろどろと流れ落ちる。 顔を針だらけにされて絶叫する少女だが、瑪瑙姫はまだ物足りない。 周囲の蟲を呼んで指示を出した。針金虫を乳首に潜り込ませて乳腺を陵辱し、糞転がしに糞の塊作らせて眼窩や口に押し込み、巨大な蚊に前後左右から肢体を刺し貫かせることにした。 「ふごおおおおっ! ぐうう、ふううう! ううう! うううぐうううううううう!」 乳房を鈍色の針金に陵辱され、目と口の穴を仲間の大便で埋められ、槍ほどもある巨大蚊の針がブスブスと少女を刺し貫いた。血が瀧のように少女の足元に流れ、クリスタルが回復を開始する。 「あははは。あははは。いい感じの悲鳴なの! 私もめのめのになっちゃうのぉ!」 地獄の苦しみに引き裂かれる少女の、清い正義の心に広がる絶望を思うだけで、瑪瑙姫の下腹部はじくじくと疼き、性器は自然と濡れてくる。彼女の『新月』たる歪んだ欲望。 「きゃはははは! めのめのになると良いのぉ! あははは! 最高なのぉぉ!」 針だらけの手で抉るように、瑪瑙姫は少女の両足を、ぶちり、と股関節から切断した。絶叫と共に血が噴水のように上がり、拷問狂の乾いた笑みが洞窟に響き渡る。 先ほどまで少女を食べていた二匹の蜘蛛は、あまりに大きな悲鳴と楽しげな笑い声に、怯えたように洞窟の奥に消えていった。付いていけない、と言わんばかりに。 「愉しんでいただけで何よりですよ。瑪瑙姫。彼女たちを苦労して育てた甲斐がありました」 左近は微笑を浮かべながら、周囲で蟲に嬲られている巫女たちを見下ろす。自分が育て上げ、鍛え上げ、正義の心を植え付けた少女たちの、これは収穫祭。 「クロウして、ソダてた?」 瑪瑙姫は目を丸くして、いきなり、あっはっはっは、と大笑した。 左近の発言が心底おかしく、笑い飛ばすものであると解した反応だった。 「苦労するも何も、この娘たちの親や家族を殺したのって、左近さんじゃないの! 甲世軍の人狩りを偽装して、もう好き勝手に殺しまくり! もう、私もめのめのな虐殺だよ! 永山大虐殺だよ!」 それを聞いた左近は、最初は無言。 しかし、瑪瑙姫の笑いに釣られて、顔を下向けて肩を揺らして笑い始める。 「左近さんたら、本当に鬼畜ぅ! いくら玩具の情操教育には親の敵討ちが有効って言っても、材料を1人手に入れるのに何百人殺したんだか。甲世がしたことになってる虐殺の、8割は左近さんなのに!」 左近は顔を歪めて、血走った目で、 ついに大声で嗤い始めた。 「だって瑪瑙姫。知らないでしょう。無垢な少女たちが、標的を勘違いした家族の仇討ちのため、本物の仇の命令で必死に修行している姿って、とっても綺麗ですから。一度見たら、もう病み付き」 「いやーん。私も今度、やってみよっかなあ。新鮮にめのめのになれそうなのぉ!」 数千の巫女が地獄の責め苦を受ける中、蟲の巣穴、地下深くで2人の『新月』は大笑する。 そのとき、大きな地震が起きて、蟲の巣が震えた。
異変は突然起きた。それはまるで、暗闇で眠っていた獣が、真紅の眼球を開いたようだった。左近と瑪瑙姫は地震に耐えるべく、傍の岩に掴まった姿勢のまま硬直する。 「さ……左近さん。あれって、何かしらん?」 「さあ、よ、溶岩のように見えますが……ま、まさか。そんな」 「あはは。あまり、めのめのになれないかも……」 亀裂から流れて出してきた真っ赤な溶岩が、無言の侵攻を開始していた。蟲たちは近づく傍から焼き尽くされ、異形は呑み込まれ、闇はみるみる晴れていく。 それは、砂浜の落書きを波が消し去るかのように圧倒的に、洞窟内に飽和していた地獄絵図の光景を、赤い炎が蹂躙していった。 洞窟の壁はあちらこちらから破られ、爆発して噴き出した溶岩は、瀧のように流れ落ちた。蟲が熱に炙られて逃げ惑う。汚物の塊も異形の群れも、蟲の山も、等しく高熱で殲滅されていく。 クリスタルの力があろうと、溶岩の中で命は維持できない。 巫女の少女たちは蟲の中で、自然と安堵の表情を浮かべていた。それは死という地獄の終焉が訪れたからに他ならない。無念と解放の悦びを胸に、また1人、また1人と溶岩に呑まれていく。 甲世が蟲の巣を創り、左近が討伐隊を育てた。欲望に満ちた悪夢の巨大要塞が、赤い炎によって塗り潰されていく。それは、あまりに脆いと思える蟲の巣の終焉。 全ての崩壊は始まった。 「これは逃げたほうが良さそうですね」 「そーよ! 逃げるの早く早く早く! 何で私たちがこんな目に遭わなきゃいけないのーっ!」 左近と瑪瑙姫は慌てて蟲の巣の出口に向かった。他の蟲や異形たちも同様。 逃走した2人が立っていた場所は、左右から溶岩が噴き出し、瞬く間に火の海と化して、深い奈落に沈んでいった。
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蟲の巨大巣から少しばかり離れた場所で、鈴虫と弥助は慌てふためいていた。異形と化し、恐れるものなど無いと思われた彼らにさえ、恐怖と混乱を与えたものは、真っ赤に燃える溶岩だった。 溶岩がいきなり地面を割って噴き出し、近くにいる蟲を焼き尽くしながら流れ出したのだ。 「きゃあああっ! や、弥助っ! どうなってるの、これは!」 「鈴虫様、取り乱してはなりませぬ。お気を確かにお持ちください!」 赤い溶岩が噴き出し、流れてくる光景を眼前にして、鈴虫は恐怖に顔を歪めて弥助にしがみ付く。蟲が集結して幾重にも壁を作るが、容赦ない高熱は蟲をみるみる焼き尽くして灰にし、2人に迫っていた。 高熱の質量を前に、蟲を生み出して操るのは、余りにも無力。 周囲から次々と噴き出した溶岩は空を火の玉で覆い隠しながら、前後左右から流れ込む。飛んで逃げようとした弥助と鈴虫の羽は、瞬く間に焼けて穴が開き、2人は無様に墜落することになった。 「くうう、先程までの地震はまさか……鈴虫様、ひとまず、この場から退きましょう!」 「う、うん! 弥助、私に掴まって! ここから逃げるから! ゼッタイ離しちゃダメだよ!」 黒髪の洪水と化した鈴虫に包まれ、弥助の姿は外界から遮断される。 空が火の玉だらけである以上、テレポーテーションができる鈴虫でなければ脱出は難しい。しかし、鈴虫は単体での空間移動は容易でも、他者を連れての空間移動には時間がかかってしまう。 「はあ、はあ、はあ、はあ」 自分に近づく溶岩を丸い瞳に映し、鈴虫は幼い顔を引き攣らせていた。 早く空間移動をしなければ自分も弥助も焼けてしまう。 そのとき、燃える岩が鈴虫の背後で舞い散り、黒髪の洪水に雨のように降り注いできた。鈴虫は咄嗟に防御を固めて身を守っていた。自分ではなく、弥助の身を。 「きゃあああああっ! 熱いっ! 熱いいいっ!」 流れ落ちる大量の黒髪が所々で燃え上がり、髪の毛のお化けは苦しみに身悶えた。幼い顔は熱気に炙られて赤く変色し、火傷のあとが無数に浮かぶ。 「す、鈴虫様っ!」 髪の毛の中から聞こえてくるのは、愛しい者の心配する声。 鈴虫は熱に耐えれるよう肉体を変質させることはできるが、弥助はそうはいかない。 しかも、溶岩の熱と重さに耐え切れるまで肉体を強化するには、鈴虫は一時間以上かかる。直政ならばすぐに行える進化でも、まだ未熟な鈴虫はそうはいかなかった。 逃げなければ、溶岩に呑まれて鈴虫も弥助も死んでしまう。 「鈴虫様っ! この虫くれめを捨てて、御一人でお逃げください。さすればっ!」 「大丈夫、私と弥助で逃げるの! ようやく幕府が開けて、私たち、やっと結ばれるのに!」 溶岩が黒い髪を燃やしつつ迫り、2人の足場を轟々と飲み込むと同時に、鈴虫と弥助の姿はその空間から消えた。獲物を見失った溶岩は、怒り狂うように爆ぜる。 弥助と鈴虫が向かった地は、地下深くに達する蟲の巨大巣。 あそこには直政と澪も向かっているはずだ。直政と合流できれば、何とかなるはず……。
『救世主ミリルのお仕事』 第4章 −甲世の城(後) 白炎の太陽VS暗黒の新月− 4-1「白炎の太陽VS暗黒の新月1」 4-2「白炎の太陽VS暗黒の新月2」 4-3「間、集結の新月」 4-4「白炎の太陽VS暗黒の新月3」 4-5「白炎の太陽VS暗黒の新月4」 (現在ページ) 4-6「白炎の太陽VS暗黒の新月5」 4-7「燃える世界」 4-8「終極」 4-9「はじまり」
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