強固と思われた敵の肉体が、エナジーを吸引した途端に脆弱な柔肌に変化したのは間違いない。強固な装甲に守られる膨らみを攻撃した瞬間、起きた変化は劇的なものだった。 これまで獲物を体内に取り込んで殺害し、死骸からエナジーを吸っていた。それは自分に直接的な攻撃力が乏しいからだが、もしかしたら、とんでもない勘違いをしていたのではないか。 生きたままエナジーを吸えば、敵を弱らせることができるのではないか。 先にエナジーを吸引すれば、生きたまま獲物を狩ることができるのではないか。 学習の機会を経て、生物は見違えるような進化を果たす。 壁を一気に何層も破るかのように、数百段の階段を一瞬で駆け上がるかのように。 羽化する。飛翔する。 人間が偶然か必然か火の使用を覚えたように、獲物を殺してからエナジーを吸い取ることを当然の理としていた液体生物は、瞬間、獲物から生きたままエナジーを吸うことを覚えていた。
「サイレンスグレイブ!」 サターンが決死の思いで相棒の武器を呼び、口、頬、目、耳、顔中から赤い煙が舞い散った。胸からどくどくと湧き出る血液が粘液と混ざり、戦闘用のセーラー服をピンクに濡らしていく。 全身から力が少しずつ失われていくが、破滅の戦士としての破壊力が失われたわけではない。奪われた眼球や美顔や乳房について考えるのは後回しにし、今は怪物を屠ることに集中する。 足元に転がるサイレンスグレイブが反応を示さない中、無数の触手が放物線を描いてスライムの水面から飛び出し、粘液中でも無数の端末がスカートから太もも、ブーツに纏わり付いた。 前後左右からサターンの頭部や腕、太ももやブーツに、大蛇のように巻きつく触手たち。セーラースーツなど問題無いとばかりに、スライムは襟元から内部に潜り込み、手袋やブーツまで侵略を開始した。 瞬間、灼熱の痛みと脱力感がサターンの全身を呑み込んだ。痩せた肢体から、細い手足から、抉られた顔から、潰された胸から、全身が天に昇る勢いでエナジーが吸引されていく。 「きゃあああああ――――っ! やあああああ――――っ!!」 全身の中身を吸われる嫌悪感と不快感は精神も掻き乱した。全身を征服される苦痛は否応無しに、自分が搾取される存在でると幼い戦士の心に刻み込み、気力と、誇りすらも突き崩す。 拘束を解こうと手足が折れんばかりに力を込め、血塗れの頭部を振り乱すサターン。しかしスライムはびくともせず、少女の上半身は蜘蛛の巣に絡まるように、粘液の触手に封じ込まれた。 スライムはエナジー吸引を続けていく。その動きに焦りの二文字はない。なぜなら、じっくりと獲物を弱らせて食事することを学習したのだから。 狩りの方法はサターンとの戦いで進化していた。エナジーを吸いながら攻撃すれば、敵の肉体の防御を易々と崩すことができる。 「サイレンスグレイブっ! お願いだから、私の手にっ!」 触手に眼窩を犯され、頭の皮を粘液の膜に吸われてベリベリ剥がれながら、サターンは己の愛鎌を必死に呼び続けていた。かつて毛が生えていた頭の皮は、スライムの動きに合わせて、果物の表皮のようにずるり、とむくれ、内側から赤い肉が露出していく。 「ぎゃあああああああああああっ! ぎゃあああああああああああっ!」 皮を剥がれるサターンの美顔が血塗れのスプラッターから、肉屋に並ぶ肉塊に化けていく。ゴムのように伸びた頭皮と肉の結合部から、瀧のような血が溢れ出して、潰れた少女の顔を何度目か赤く塗り潰した。 激痛の連続に意識が遠くなり、抵抗するか降参するかの意思決定さえ白い霧に覆われていく。セーラー戦士ではなく普通の少女なら、ここまで耐えれずに発狂しただろう。 (私の顔が、身体が……食べられちゃう……) ここでようやくサターンは、自分が捕食されていることを実感できた。今まで侵略者は度々現れたが、何れも一定水準の文明を有した知性ある存在であり、ただ食べるだけの存在はいなかった。 (だけど、そんなことを言ったら、私はどうなんだろう……) 否応無しに破滅の力で星さえも吹き飛ばす最強の戦士。 星に住む多くの生命をも意識せず巻き込んでしまう危険な力。 食べるのなら、まだ相手の血肉になる。食物連鎖は理科の時間に習った。しかし、ただ殺して無に帰すだけの力に、後に何も残らない力に、果たしてどれだけの価値があるのだろうか。 少女を苦しめ続けてきた悩み、業。それが弱った心を黒い闇に沈めていく。 「サイレンス、グレイブ……っ! 私の、声が……聴こえないの……っ!?」 相棒の鎌はサターンの呼びかけにまるで無反応だった。スライムから集中攻撃を受けて朽ち果てていく戦士を無視し、ブーツの先で虚しく転がっている。 「……どうして……わたしには、おまえが、ひつようなのよ……!」 エナジーを失って防御力が落ちたサターンの肉体は、もうスライムの攻撃に耐え切れない。 細い腕の皮は薬品で溶かしたように崩れてめくれ、内の肉が硬質化した触手に抉り出され、筋肉に粘液がみるみる潜り込んでいく。手袋の中では甲や指先が磨り潰され、乳房同様のミンチにされていた。 下半身では無数の触手の槍が股間の肉を掘り始めていた。目的はセーラースーツの股布の内側に潜り込むことだ。太ももは既に皮を剥がされて内部を掻き回され、脂肪や筋肉が切り落とされて骨付き肉のよう。 「ああああっ! わ、私の顔があああっ!」 スライムの膜が吸盤のように吸い付き、顔の皮を剥ぐ力が増していく。 ゴムのように伸びたほたるのマスクを、サターンのズル剥けの顔が繋ぎ止めようとして、顎をくっ、と引く。勝っても負けても地獄しか無い顔皮の綱引きは、しかし彼女ができる唯一の抵抗だった。 首筋からは血液色に染まったスライムの端末が、じゅるじゅると乳房の血と肉を吸っている。 セーラー服の内部に侵入した端末は、背中や腹部に広がって少女の身体をゆっくり消化していた。背中は既に背骨が露出するほど肉を失い、腹部でも臍は耕されて原型も留めていない。 「嫌っ! 嫌ああああっ! 嫌っ! もう許してええっ!」 無数の触手に責められるサターンの顔は、皮の大半を剥がれて男女の区別さえできない。肉が削げて骨が露出した手足と反対に、白い手袋やブーツは粘液で満ちて風船のように膨らんでいる。 全く無傷の戦闘コスチュームからミンチと化した血肉を吸われ、エナジーを吸われ、幼いセーラー戦士は泣き叫ぶしかなかった。しかし涙さえ、もう赤い濁水にしかならない。 「うっ! ふむっ! ううううっ!」 眼窩と口と鼻腔に、スライムの触手が捻じ込まれる。 何度めかの顔面レイプと同時進行で、数本の触手がサターンの頭の肉を抉り返した。血の海から島が浮かぶように、頭蓋と思しき白い骨が露出してくる。 頭蓋骨が空気に触れる度に、頭に焼けるような激痛が走った。これ上の痛みは存在しないと自分に言い聞かせる毎に、今までの何よりも恐ろしい激痛が少女の身体を襲い、苦しめてくる。 「んぐぶううう――っ!」 べりっと余韻を残して顔の皮が全て剥ぎ取られ、サターンは幾度目かの絶望に打ち震えた。戦士の面影を唯一残していた精巧なティアラが、虚しく粘液の海に落ちて沈んでいく。 切り札のサイレンスグレイブも呼びかけには応えてくれず、もう戦闘は不可能だった。言葉にならない悲鳴は無条件の降伏を伝えていたが、捕食目的のスライムには関係なかった。 少女が搾りカスとして果てるまで、延々とエナジーを吸い取るだけだ。
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深い深い粘液の海の底に、ゆらゆらと漂う少女の肢体があった。 辛うじて人間に見えなくもない、腐った小動物の死骸のようになった肉と骨の塊は、最後に、かつて自分の姿を思い出しながら、粘液の海に静かに融けていく。 短いプリーツスカートに、大きく花咲く綺麗なリボン。 純白のレオタードに清廉な紫の装飾が施された、お子様サイズの戦士服。 愛と正義のセーラー服美少女戦士、最後にして最強の少女。華奢な肢体に破滅の力を宿した幼い戦士は、最強の鎌「サイレンス・グレイブ」を構えて叫ぶのだ。
「沈黙の星、土星を守護に持つ、破滅と誕生の戦士セーラーサターン!」
BADEND
『スライムvs土星の戦士』 1 2 3 4
(※)本SSはMUGENで作成されたキャラクター「スライム」を参考にして書いております。 映画「ブロブ」も参考にしました。
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